「ひぇぇぇ!ごめんなさいごめんなさい!呪わないで!お墓荒らしてごめんなさいーっ!」

「おい、ちょっと落ち着けって」

「悪霊たいさーんっ!」

「…マジで大丈夫か?」

…えっ?

恐る恐る顔を上げると、呆れ返った表情のジュリス君がこちらを見ていた。

「枝だよ。ほら」

ジュリス君は、お墓の影から落ちた枝の束を差し出した。

…枝にビビってたの?私。

多分羽久が見たら、心底呆れるだろうなぁと思った。

羽久じゃなくても呆れてるよ。ジュリス君が。

「…なぁんだ!もー、脅かさないでよっ…」

「あんたが勝手にビビってたんだろ…?」

ごもっとも。

「あんた、聖戦の救世主だろ?何で幽霊ごときにビビってんだ」

「うっ…。だ、誰だって、何歳になったって、お化けは怖いよ…」

救世主とか関係ないから。怖いものは怖いし。

お化けを怖がってるくらいだから、私は救世主に相応しくないってことだよ。

「そもそも、魔物は幽霊になるのか?これって魔物の墓なのか」

ジュリス君は素手で、すぐ近くにあった錆びた墓碑の煤を払っていた。

さ、触れるんだ、ジュリス君…。凄いね…。

私、とても触る勇気ないや…。

毛虫とか触れないタイプだから。お墓も無理。

「魔物にも墓を作る文化が…。…って、何語だ?これ」

「えっ?」

「…あんた、これ読めるか?」

ジュリス君の指差す墓碑には、不思議な記号…文字…?のようなものが刻まれていた。

ほとんどが潰れて、判別しにくいけど…。

「…分からない。何語だろうね?埋葬された魔物の…名前かなぁ?」

「聞いたことあるか?魔物が墓を作るなんて」

「…ないね…」

お墓を作るという文化は…人間特有、いや、現世特有の慣習だと思っていた。

冥界でも、そんな文化が…?

「とても信じられないが、ここに墓地があるってことは、墓を作る魔物もいるんだろうな…」

「そうだね…」

「一体何の種族なのか…。多分、マシュリの神竜族みたいに、高度な知能を持った魔物なんだろうな…」

「…」

「…おい、大丈夫か?」

「えっ?」

私は、じーっと崩れた墓石を眺めていた。

さっきまでは怖かったんだけど、それ以上に、何だか気になって…。

「どうした。何か気になることでもあるのか?」

ジュリス君、よく私の考えてることが分かるね。

私、そんなに分かりやすい?

「この…お墓に刻まれてる文字…」

「読めるのか?」

「いや、読めないけど…。でも、何処かで見たことがある…ような、ないような…」

「…どっちだよ」

ごめん。自分でも分からないや。

だけど、何故だろう。

初めて見たような気がしないんだよね。何処かで…。

…何処だろう?

記憶を辿りながら、私は、別の墓石の前に立って、ハンカチで汚れを払った。

罰当たりなことをしてごめんね。でも、やっぱり気になって。

なんて書いてあるのか、私には読めないけど…。

墓石に刻むくらいだから、多分、そのお墓に埋まってる人の名前や…生い立ちとかが書いてあるのかな?

せめて、知っている単語を一つでも拾えたら…。

「…どうだ?…読めるか?」

じっと墓石を見つめる私に、ジュリス君が尋ねた。

「いや…。やっぱり分からな…あっ」

その時、私はとあることに気づいた。