ルーデュニア聖王国王宮にある一室。

この部屋は、国王と、重要な賓客のみが立ち入ることを許される、聖域のような場所である。

そんな場所に、付き添いとはいえ、私も入らせてもらうとなれば、緊張するのも当然である。

はぁ、まだ会談が始まってもないのに、何だか鳩尾の下辺りが痛いよ。

イレースちゃんとかだったら、誰が相手でも全く緊張せず、いつも通り話せるんだろうなぁ…。

私はほら…メンタルがやわやわの、そう、さながらチョコマシュマロのごとくふわふわだから。

あぁ、そんなこと言ってたらチョコ食べたくなってきちゃった。

今日のこれ、フユリ様とナツキ様の会談が終わったら。

帰り、チョコケーキ買って行こう…。

そして学院に戻って、皆で美味しいねって言いながら食べる。

よし、これを楽しみに会談を乗り切ろう。

そんなことを考えながら、私は、フユリ様に続いてその「聖域」に足を踏み入れた。

そこには既に、会談の相手…ナツキ様が座って待っていた。

一人ではなかった。

私がフユリ様の後ろにくっついているように、ナツキ様の背後にも、二人の従者がくっついていた。

あの二人には見覚えがある。

決闘の三回戦…私達と戦った相手。

名前は確か…ハクロとコクロ、だったか…。

催眠魔法と、幻覚魔法の使い手…。

そして、かつてルディシア君やマシュリ君が所属していた…アーリヤット皇国皇王直属軍『HOME』の魔導師だ。

「…遅かったな。俺を待たせるとは、随分偉くなったものだ」

フユリ様が入ってきたのを見て、ナツキ様は顔を上げてじろりとこちらを睨んだ。

うっ…。強烈な先制パンチ。

和やかに友好の握手からスタート…出来たら良いなぁなんて思っていたけど。

握手どころじゃないよ、これ。

初手から殴り合いが発生してるような気がする。

「遅くなって申し訳ありません」

これには、フユリ様も少なからぬダメージを受けたに違いないというのに。

フユリ様はそのような様子はおくびにも出さず、自らもナツキ様の前に着席した。

さすがである。

そして、いよいよ…ここに、ルーデュニア聖王国と神聖アーリヤット皇国、敵対する両国の国王が、互いに顔を合わせて席に着いた。

もしかしたら、後の世の歴史に残るかもしれない瞬間に、自分が立ち会っているかと思うと…。

…考えたら余計に胃が痛くなりそうだから、考えないでおこう。うん。

それなのに。

「何故、ここに貴様がいる?」

「うっ…」

私のことは、フユリ様の付属品…いや、単なる空気と思ってくれて良かったんだけど。

ナツキ様にキツい視線を向けられ、私は思わず冷や汗をかいてしまった。

ま、不味い…。早速ピンチだよ。まだ会談始まってもないのに、早速窮地に陥ってる。