それを聞いた途端、思わず頬が(ほころ)んだ。
 ほっとして、嬉しくて、心が満たされていくのを実感する。

「……それなら、まだ間に合うかな」

「え?」

 きょとんと聞き返した彼の手を取ると、ぎゅっと握った。
 驚く悠真を見上げ、首を傾げる。

「これからも一緒にいてくれる?」

 どんなときでもそばにいて、一番近くで守ってくれていた悠真のことを、わたしはいつの間にか好きになっていた。

 やっと気がつく。
 これは、わたしの初恋だ。

「当たり前だよ、そんなの」

 彼は一瞬たりとも迷うことなくそう言うと、わたしの手を強く握り返してくれる。

「……でも、覚悟してよ? 幼なじみとしてじゃもう足りないから」

「うん、わたしも」

 そう言った途端、唇を塞がれた。
 はっとしたときには至近距離に悠真の顔があって、キスされたのだと遅れて思い至る。

「俺だからって、油断しないで」

 たった一秒にも満たないほどの瞬間に、心のすべてを奪われた。
 かぁ、と頬が熱くなる。

 ふっと笑った悠真は元の距離に戻って、嬉しそうに頬を緩めていた。

「……もう隠さなくていいんだ」

 彼の言葉のひとつひとつに、どきどきが止まらなくなる。
 鼓動がますます加速していくのを感じながら尋ねた。

「い、いつからわたしのこと?」

 悠真は躊躇(ためら)うように視線を彷徨わせ、やがてわずかに眉を寄せたまま首を傾げる。

「……言わなきゃだめ?」

「聞きたい、な」

 何となくその頬が色づいていることに気がつくと、わたしの方が戸惑って緊張してしまった。

「じゃあ……これだけ教えてあげる」

 渋々といった様子ながら観念(かんねん)したらしい悠真は、わたしの耳に顔を寄せた。
 てのひらを添えて囁く。

「結衣は、俺が初めて好きになった人」

 なぜか頭の中に、あの頃の景色が浮かんできた。
 お互いにランドセルを背負って、コットンの話なんかをしながら歩いた帰り道────。

「……気づくの、遅くなってごめんね」

 そう言うと、悠真はまた嬉しそうに笑う。

「いい。これからはぜんぶひとりじめできるから」

 繋いだ手にいっそう熱を感じた。
 夢の中みたいに心地いい時間に浸る。



 ────きっと、大丈夫。

 過去も、思い出も、秘密も、嘘も、傷も、分かち合ったいまなら、ふたりですべてを乗り越えていける。

 もう二度と忘れない。見失わない。
 彼が守ってくれた「わたし」のことを。

 顔を上げて前を見た。
 世界はいままでよりずっと、彩りにあふれて輝いて見えた。



【完】