一瞬の出来事だった。

 あまりの衝撃と恐怖にすくみそうになる足を必死で動かして、俺は祭りの喧騒(けんそう)に割り込む。

『だれ、か……』

 血の気が引いて、身体中が震えていた。
 ふたりがどうなったのか、恐ろしい想像が浮かんでは()き立ててくる。

『だれか助けて!』

 そうやって必死で叫んでいる間の出来事だった。
 境内の下で火事が起きたのは。

 人気(ひとけ)がないから、と勝手な理由で入り込んだ大学生くらいの若者たちが、禁止されているにも関わらず花火をしたそうだ。

 それが火種(ひだね)となって、()の葉や枝に燃え移り、動けないふたりも炎に包まれた。

 ────それから少し経って、彼女が亡くなったことを知った。
 鈴森は奇跡的に一命(いちめい)を取り留めたと聞き、俺は病院へ向かうことにした。

 自分の目で確かめるまで信じられなかったのだ。
 彼女の死という事実を、受け入れる余地なんてどこにもなかった。

『悠真くん……』

 病室で、鈴森は俺をそう呼んだ。
 何度も聞いた、彼女の声で。

 この子は鈴森じゃない。
 ひと目でそれが分かった。

 そんな直感の間違い探しをするようにじっと彼女を眺めてみたけれど、むしろ確信に変わっただけだった。

『……ごめん』

 思わずそう告げた瞬間、押し寄せてきた後悔の念に負けた。
 あふれてくる涙を止める方法も分からず、ただ泣きながらひたすらその言葉を繰り返していた。

 あのとき、俺はあの場にいた。
 何かできることがあったんじゃないだろうか?

 鈴森を死なせずに済んだ、彼女を苦しませずに済んだ、正解があったんじゃないだろうか。

 そうしたら、きっとふたりの運命が入れ替わることもなかった。

 いますぐ本当のことを話そうか、大人は信じてくれるだろうか────そんなことを考えたけれど、すぐさま打ち消していた。

 余計なことをして彼女を混乱させたくない。

 鈴森の死が自分のせいだなんて責任を感じて思い詰めるようなことがあれば、辛い思いをさせるだけだ。

 いつかそのうち突きつけられる真実だとしても、それはいまじゃない。

『これからは……おれが守るから』

 彼女の中にどれほどの真相が残っているのか分からないけれど。
 俺は大事な存在から目を離さないで、そばにいると決めた。

『大丈夫。きみは生きてる』