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 うっすらと目を開けたとき、まだら模様の白い天井が見えた。
 手足の先に感覚が戻り始める。

「……起きた?」

 ふと横を向くと、ベッドの(かたわ)らに悠真がいた。

(そっか、わたし……)

 パンドラの箱ともいえる、封印したはずの本来の記憶を取り戻して錯乱(さくらん)状態に陥ったのだ。

 意識を失ったところを保健室まで運んでくれたみたいだった。

「大和くんは……?」

「教室戻ってもらった。先生もいまは外してる」

 そっか、と頷きながら身体を起こした。
 悪夢から覚めたみたいに、不思議と軽やかに感じられる。

「大丈夫?」

 案じてくれる悠真の表情が、なぜかあの頃の彼と重なった。
 頷いて答えると、小さく笑う。

「……あのとき、悠真がなにを謝ってたのか分かった気がする」

 彼が助けてくれた、その事実は変わらないのに。
 謝ることも自分を責めることも、何ひとつとしてない。

 さっきだって大和くんに嘘をついて、ひとりであの夜の真相を抱えながら、ずっとわたしを守ろうとしてくれていた。

 ────いまになって、ひとつ気づいたことがある。

 あの日、風花と仲(たが)いした原因は、ふたりして大和くんを好きになったからだと思っていた。
 だけど、実際のところはちがったのだ。

 「風花」に心底憧れていて、彼女になりたいとまで思っていたわたしは、好きな人まで同じじゃなければならない、と必死で恋に恋をしていただけだった。

 初恋に(とら)われていたのは大和くんだけじゃなくて、わたしも同じだったのだ。

「悠真……。色々とありがとう」

 真っ先に伝えるべき言葉を、ようやくかけることができた。
 悠真は一拍置いて俯く。

「本当はきみにもぜんぶ隠し通すつもりだった。……この真相は、何もかもを壊しかねないから」

 彼の言う通りだった。
 「わたし」の正しい居場所は、いったいどこなんだろう?

 今さら結衣として生きられるだろうか?
 このまま風花として秘密を抱え続けるべきなのだろうか?

「でも、どうするかはきみが決めればいい。正しいも間違いもないから」

 悠真のあたたかい手が頭に乗せられた。
 肩の荷を下ろしたように澄んだ微笑みを向けられる。

「きみが誰だって、俺の気持ちはあの頃から変わらない。これからも……結衣のことは俺が守るから」