「鈴森はただ、おまえを傷つけたくなかっただけ。……責めるのはお門違いだ」

 芯の通った声で凛と悠真は告げる。

 大和くんは俯きかけたものの、不意にはっとひらめいた様子で彼を見やった。

「アレルギーは?」

「アレルギー?」

「風花は昔からメロンが食べられなかった。なのに、いまは何ともなくなってたんだよ」

「……治ったんじゃないの」

 怪訝(けげん)そうに大和くんが眉をひそめる。

「そんなことある?」

「発症したのが子どもの頃なら治ることもある、って何かで聞いたことある。ていうか、そもそも本当にアレルギーだったの?」

「え……」

「だって検査したわけでもないんでしょ。少なくとも俺は、いまのいままで鈴森がアレルギーなんて聞いたことなかった」

 かちり、と最後のピースがはまった瞬間、頭の中のパズルは跡形(あとかた)もなくばらばらに砕け散った。

 ふたりの声が遠くへ霞んでいき、足元が傾いて思わずたたらを踏む。
 目眩がする。頭痛がする。粟立った肌はまだ元に戻らない。

「風ちゃん……?」

 異変に気づいた彼に呼ばれるけれど、答える余裕はなかった。
 明かされた真相に、この場で反論することもできなかった。

(うそ……)

 ────くぐもっていたあの夜の記憶が、光景が、鮮烈(せんれつ)脳裏(のうり)を裂いて明瞭化していく。

 10年の歳月をまるごとひっくり返すような衝撃が、わたしの全身を貫いた。

(嘘だ)

 ……悠真は嘘をついている。
 滔々(とうとう)と語った話のぜんぶがぜんぶ、真実と重なっていない。

 いまのわたしには、それが分かってしまった。

「……っ」

 ────あの日、わたしと一緒に倒れていた少女。
 血の染みた浴衣と投げ出された下駄。

 亡くなったのは、高野結衣じゃない。

(わたし……)

 両手が震えて止まらない。
 血の気が引いて、呼吸すらままならない。

(わたしの目の前に倒れてた、あの子……)

 ────彼女こそが「風花」だった。

 力が抜けて、靴の底から感覚が消える。
 頭が真っ白になって、そして目の前が真っ暗になった。



     ◇



『風花ちゃん!』

 とんとん、と肩を叩かれて振り向くと、そこにいた女の子たちは慌てた顔をする。

『あ……ごめん、結衣ちゃん。うしろ姿が似てたから風花ちゃんかと思った』

『うしろ姿だけじゃなくて、顔も声もすごく似てるよね』

『うんうん。ふたりって仲良しだし、双子みたい』

 口々にそう言われて、悪い気はしなかった。
 わたしにとって「鈴森風花」という女の子は、親友であり憧れの存在でもあったから。