テイクアウトしたジュースを片手に、近くの公園へ立ち寄った。
 大通りに面していて、それなりに人気(ひとけ)がある。

 ベンチに並んで腰を下ろした。
 噴水と花壇を眺められる位置にあり、のどかな空気が漂っている。

 ストローに口をつけたとき、大和くんが静かに口を開いた。

「風ちゃん。……保健室でのこと、本当にごめんね」

 何度もそう繰り返すということは、その件に関しては本気で反省しているようだった。

 適当に流してしまえる問題ではなかったけれど、いまは怒りも悲しみも息を潜めていて湧いてこない。

「それは……本当にもう平気だよ」

 あのとき、本当は火傷の跡を確かめようとしたんでしょ?
 そう続ける前に、彼の言葉が先を越す。

「俺、風花のことが好きだった」

 思いもよらない発言だったけれど、内容そのものに驚いたわけじゃない。

 前にされた告白を抜きにしても、その想いは身に染みて分かっていたことだ。

「本気だった。でも、うまくいかなくて……どうしてかきみには届かないし、全然伝わらない」

「分かろうとしなかったわけじゃないよ。ただ、わたしが意気地(いくじ)なしだっただけで……」

「そう? でも正直、あの頃の風ちゃんはもういないのか、ってがっかりしてた」

 大和くんはそう言って肩をすくめた。
 全然気がつかなかったけれど、もしかしたらそれが疑惑の糸口だったりしたのかもしれない。

「きみ、変わったよね。もう俺の知ってる風ちゃんじゃない」

「え……?」

「そう思って考えたんだ。風ちゃんってどんな子だったっけ、って。ほら、少なからず過去って美化されるものでしょ」

 冷たいジュースで満たされたプラスチックカップの外側を、水滴がゆっくりと伝い落ちた。
 じわ、とスカートに雫が染み込んでいく。

「考えれば考えるほど、いまのきみには惹かれなかった」

 大和くんの言葉はあまりに予想外で衝撃的なものだった。
 置いていかれそうになる中、どうにか理解が追いつく。

 それなら、これまでの時間は何だったのだろう?

 先ほどの言葉は────と思いかけてひらめく。そういえば、それがそもそも過去形だった。

「それでやっと気づいたんだ」

 切なくて(もろ)く見える、やわい笑みが浮かべられた。
 そんな彼を斜陽(しゃよう)が照らす。

「俺は初恋だとか運命だとか、そういうものに恋してただけだったんだ、って」