息をのむ。心臓が跳ねる。
 あまりに突然のことに、まともに動揺してしまう。

「風花」

「具合、悪かったんじゃ……」

 混乱を(あらわ)にしながらも、咄嗟に()がそうと彼の腕に触れた。
 だけど、その前に身体が反転して向かい合う形になる。

「あんなの仮病だよ」

 確かに先ほどまでの蒼白(そうはく)な顔色ではなくなっていた。
 いつも通りの余裕に満ちた微笑をたたえ、触れていたわたしの肩を押す。

「え、え? ちょっと……」

 意思によらず後ろ側に体重がかかり、バランスを崩した。
 太ももの裏にベッドが当たって、とさ、と図らずも腰を下ろす羽目になる。

 それでも大和くんは止まってくれなくて、そのままマットレスの上に膝をついた。
 ぎし、とわずかに軋む音がする。

「こんなチャンス、逃すわけないでしょ」

 気づいたらわたしの背中もベッドに触れていた。

 彼に覆い被さられていて、さっきの比にならないくらいの動揺があとから追いついてくる。

「や……!」

 圧倒されて動けなかった身体に無理やり感覚を呼び戻して、彼を押しのけようと手を伸ばした。
 だけど、それが及ぶ前にあえなく捕まってしまう。

「だーめ。暴れないで」

 両手首を頭上でまとめ上げられる。
 わたしの抵抗をおさえ込むのには、片手でこと足りるみたいだ。

「な、何の冗談……?」

「冗談なんかじゃないよ。ほら、力抜いて」

「やだ……っ」

 身をよじって抜け出そうともがいたけれど、力で敵うわけもなかった。

 焦りが募って、ばくばくと心臓が暴れる。
 感情に揺り動かされ、知らないうちに呼吸が浅くなっていた。

「……ここ、病室を思い出すね」

 ふと、懐かしむように彼がこぼしたひとことに思わず動きを止める。

「病、室?」

「風ちゃんは忘れちゃったかな。入院してたきみに毎日会いに行ってたんだけど」

 そのことは、以前に悠真と話したことでわずかながら思い出した。
 確かにそのときの光景が記憶に残っている。

「覚えてる……。それは少しだけ思い出したから」

 そう告げると、大和くんは意外そうな顔をした。
 ふっと表情を和らげてわたしを見下ろす。

「本当? 嬉しいな」

「……っ!?」

 突然、腰のあたりに何かが触れた。
 彼の手がブラウスの下に滑り込んできて、脇腹のあたりの素肌をなぞる。

「やめて!」