ばたん、と自室のドアを閉めると力が抜けた。
 床に鞄が落ちたのもそのままに、背中を滑らせてへたり込む。

『俺を選べばいい』

 おさまる気配のない鼓動がどきどきと強く打っていた。
 胸に手を当て、深々と息を吐き出す。

(あれって……告白、だよね?)

 さすがにそれまでもを“忘れて”とは言わなかったけれど、返事を求められることもなかった。

 衝動的に口走ったわけじゃなくて、伝えることが目的だったのだろうか?

(でも、本当にそうだったんだ……)

 ここのところの意味ありげな態度や言葉は、勘違いなんかじゃなかった。
 悠真は本当にわたしを想ってくれていたんだ。

 戸惑いと照れに包まれる一方で、素直に嬉しいと感じている自分がいた。

 だけど、何かが引っかかったままで、感情がストレートに流れていかない。

「…………」

 “意味ありげな態度”の中には、そういう思わせぶりなもの以外も確かに含まれているのだ。

 終始何か言いたげなのに、結局は口を(つぐ)んで背を向けてしまう感じ────そこに恋心が関係しているのかは分からないけれど、ずっと不自然だった。

『せっかく再会できたんだから、俺に構わずふたりで仲良くやればいいじゃん』

 当初そう言っていたように、大和くんへの遠慮だったのたろうか?

(それだけじゃない気がするけど……)



     ◇



「行ってきまーす……」

 一夜明けても、心は落ち着かないままだった。
 帰り道でのことを思い出すたび、鼓動が騒いで熱が舞い戻ってくる。

(ど、どんな顔して悠真に会えば……)

 包み込むように両手を頬に当てながら歩を進めた。

 ばったり会ってしまったらどうしよう?
 いままで通りに接せられる自信なんてない。

 どのみち教室で顔を合わせることにはなるし、学校へ着くまでに心の準備ができるわけもないけれど。

「…………」

 悠真はわたしの答えを欲していなかった。
 このまま、なかったことにするべきなのかな?