予想外のひとことに驚いて目を見張る。

「どうして……? どういうこと?」

 たったいま、大和くんは本物だ、と言いきったのは紛れもない悠真だ。
 それなのに“信じるな”なんて────。

 戸惑いが膨らんでいくけれど、彼は打ち切るように視線を逸らした。
 そのまま静かに口を開く。

「……今朝、どうしたらいいのかって聞いたよね」

 身に余るほどの大和くんからの想いを、それに伴う不信感を、持て余したわたしは確かにそう不安をぶつけた。

 ゆっくりと減速し、足を止める。

 悠真の横顔はどこか(うれ)いを帯びているように見えて、なぜだかどきりとした。

 いまになって緊張してくる。
 ふたりで歩くのなんて初めてじゃないのに、一緒に出かけた日のことがちらついて、変に意識してしまう。

「俺にしなよ」

 突然のひとことだった。
 一瞬の迷いもなく、彼は告げた。

 だんだん理解が追いついてくると、鼓動が加速の一途(いっと)を辿り始める。

「え……?」

「俺を選べばいい」

 それこそが“どうすればいいのか”というわたしの問いに対する、悠真の答えということだろう。

「簡単でしょ。……俺の方がきみのことよく分かってるし」

 そう言って目を伏せると、こちらへ手を伸ばしてどこか躊躇いがちに頬に触れた。
 指先から優しい体温が伝わってきて、彼から目を離せなくなる。

 以前、同じことをした大和くんの温もりや感触が、ぜんぶ上書きされていくみたいな気がした。
 ……感情の振れ幅が、比にならない。

「ゆう、ま……」

「────なんて」

 するりと手が離れていく。

「……これも俺のわがままか」

 そう、悠真は笑った。笑っているのに泣きそうに見えた。
 あまりに儚い表情に思わず息をのむ。

 高鳴ったままおさまらない心音も、胸を締めつける感情も、どうすることもできないで立ち尽くした。

 傾いた日が溶かしてくれるわけもなく、ただ口を噤んだまま。

「……でも、ひとつだけ覚えてて」

 その声は普段と変わりないけれど、いまはそこにいつも以上の優しさと強さを感じた。

「俺はきみを守りたいだけ。何があっても、それは揺らがない」