◇



 今日は日がな一日、()りもしないで大和くんを試すようなことばかりを口にしていた。

 結果として、昼休みのあれ以外に彼が墓穴(ぼけつ)を掘ることはなかった。

 ただ、何にしても“偽物”つまり別人だというのなら、どうして彼が大和くんの情報を持っているのかは謎だ────。

「……、ねぇってば」

「……えっ?」

 ひらひらと目の前で手を振られ、意識が現実へと引き戻される。

 いつもの帰り道を、悠真と一緒に歩いているところだった。

「考えごと?」

「あ、うん。……実はちょっと気になってることがあって」

 悠真は何も感じていないのだろうか?
 大和くんに対する違和感や疑惑。その片鱗(へんりん)でも。

「小さい頃に離れ離れになって再会した人が、同じ人かどうかなんて……普通に考えて分かりようがない、よね」

 どうしてか悠真には“何でもない”と突き放したり強がったりすることができなかった。

 分かってくれるかも、という期待が気づかないうちに込もっていたかもしれない。

「……それって、あの頃の三枝といま目の前にいる三枝が同一人物かどうか疑ってる、ってこと?」

 果たして彼は端的(たんてき)に核心を突いてきた。
 こく、とわたしは頷く。認めざるを得ない。

「どっちかにしかない思い出なんて、妄想と変わらないもんね」

「そ、そこまでは思ってないけど……」

「じゃあ何でそんなこと考えたの?」

 そう聞かれると、まだうまく言葉にはできない。
 思考と感情が絡み合ってほどけない。

「……何となく違和感があるような気がして。大和くんに、っていうか、わたしたちに、っていうか」

 色々と腑に落ちない部分が積み重なって、不信感に繋がった。
 あの頃のように戻れないのは、時の流れだけが理由じゃないと思う。

 また考えが深みにはまっていきそうになったとき、おもむろに悠真が口を開いた。

「三枝は三枝だよ。本物」

 どうしてそう言いきれるのだろう?
 そんなにはっきりと断言されると、かえって納得がいかない。

「……だけど」

 眉を寄せたまま返す言葉を探しているうちに、彼に先を越された。
 いっそうまじめな顔つきになって続ける。

「あいつのことはあんまり信じない方がいい」