これもまた、どちらかと言えば無意味な質問だと自覚していた。
 聞いたところでわたしは答えを知らないから。

 だけど、気になってはいた。
 真実であれ、虚構(きょこう)であれ、彼がどう過ごしていたのか聞きたかった。

「それは……」

 大和くんの瞳が揺らぐ。
 困ったような笑みをたたえた。

「聞いても退屈だよ」

「それでも知りたい」

 食い下がったわたしを彼は意外そうに見返したけれど、それ以上強く拒むことはしなかった。
 観念(かんねん)したように口を開く。

「……親が離婚した話はしたよね」

 再会して間もない頃、確かに彼はそう言っていた。
 だからこそ踏み込めなくなって、いままでどうしていたのか尋ねることを、無意識のうちに遠慮していた。

 そういう意味では、それは予防線だったかもしれない。
 疑惑をもとにうがった見方をするならば、の話だけれど。

「最初の転校できみと離れ離れになったとき、実はもう両親の仲がよくなくて。俺は祖母の家に預けられることになったんだよね」

 そのための転校だったみたいだ。
 思えばあのときも、具体的な理由は教えてくれなかったような気がする。

「それで、まあ……色々あって離婚することになって。俺が“戻りたい”って言ったことで、2回目の転校が決まった感じかな」

 わたしは固く口を閉ざしたまま、何も言えなくなってしまった。

 予防線だなんてとんでもない。
 いまの話を偽りだと疑えるほど、無神経な心臓は持ち合わせていなかった。

「……ほら、言ったでしょ」

 大和くんはまた困ったように笑うと、人差し指でわたしの頬をつついた。

「やっぱりそんな顔させちゃうと思った」

 だから言わなかった、ということだろう。
 いたたまれなくなる。ただ辛い過去を掘り返して傷つけただけだ。

「ごめんなさい……」

「ううん、大丈夫だから。おあいこってことで、もう謝り合うのやめよう」

 どう考えても釣り合う出来事ではないのに、そう言ってくれる大和くんの優しさが染みる。

 申し訳なくて苦しい気持ちでいっぱいになる。
 だけど疑いに歯止めをかけるブレーキにはなりえなかった。



     ◇



「大和くん、これあげる」

 昼休みになり、購買で買ってきたグミとチョコをひと袋ずつ机の上に並べた。

「どっちがいい?」

 大和くんは確かに甘いものも好きだったし、先ほど自分でもそう言っていた。

 だけど、ことチョコに関しては、彼は苦手としていたのだ。
 逆にわたしは大好きで、彼がくれるものをいつももらっていた。

「いいの? じゃあ、こっちもらうね。ありがとう」