気にしてない、なんていうのは嘘だったけれど、そうでも言わないと彼は “ごめん”以外の言葉を忘れてしまうんじゃないかと思った。
大和くんが力を抜いたのが見て取れる。
先ほどより強張りのほどけた顔ではあるものの、しおらしく眉を下げたままだ。
「さっきもごめんね。……俺、風ちゃんのことになると本当に余裕ないみたい」
確かにわたしも驚いた。
瞬間的とはいえ悠真に手を出しかけた姿が、なかなか頭から離れない。
「わたしは平気だけど、それは悠真に伝えるべきなんじゃ……」
「うん、そうだよね。あとで謝っとく」
本当かな、大丈夫かな、と咄嗟に不安が渦巻く。
また知らない一面を見た。大和くんという人物像からは想像もつかないような一面を。
たった一度でもそういうことがあるだけで増長していくほど、疑惑はわたしの中で無視できないものになっていた。
不信感、とも呼べるかもしれない。
10年近く離れ離れで、ただの一度だって会うことがなかった。
幼少期の記憶しかないとなると、はっきり言って“装う”のは容易だ。成り代われる。
目的は推し量ることもできないけれど、それは事実として確かに言えることだった。
「ね、ねぇ……大和くん」
「ん?」
「大和くんの好きな食べものって何だっけ?」
「え、どうしていきなり?」
「いいから……!」
「えっと、甘いものかなぁ」
はっとした。わたしの知る限りでは、彼は小さい頃からカレーが好きだったはずだ。
給食でそれが出る日には絶対に休まなかったし、2杯くらいは平気でたいらげていた。
“甘いもの”なんて漠然としているし、かすりもしていない。
もしや、とつい疑いを深めてしまったとき「あ」と大和くんが声を上げる。
「でもカレーはいまでも好きかな」
落胆すればいいのか安心すればいいのか、即座には判断ができなかった。
お陰で大した反応も返せない。
「……そう、なんだ」
「急にどうしたの?」
「ううん、何でもない」
そもそも食の好みなんて、月日の流れとともに変わる可能性が大いにある。あてにならない。
かまをかけるにしても、確かめるにしても、もっと核心を突くような内容じゃないと意味がない。
「大和くんは……わたしと再会するまで、どこでどうしてたの?」