目を開けて見上げると、大和くんの優しげな双眸に捉えられる。
「ごめんね、お待たせ」
「ううん。……どうかしたの?」
少し姿勢を正しながら尋ねると、彼は後ろ手に隠していたものをそっと差し出してきた。
ふわっと視界が明るくなる。
薔薇やガーベラ、かすみ草で彩られた、かわいらしい花束だった。
柔らかい風にリボンが揺れる。
「これ、って……」
「風ちゃんにプレゼント。受け取ってくれる?」
……嬉しい、と率直に感じた。
だけど、含みのある言い方のように思えて、ついすぐには頷けなかった。
花束を眺めてから、窺うように彼の顔を見つめてしまう。
もしかしたら、これも指輪の代わりのつもりかもしれない。
「嬉しい、けど……婚約の証とかなら受け取れない」
自信なさげな弱々しい声になってしまったけれど、濁さないではっきりと告げた。
大和くんからの告白を受け入れるかどうか、わたしはまだ決めきれないでいる。
いくら罪悪感があっても、流されるべきじゃない。
「そういうわけじゃないよ。単に今日のお礼として。……だから、ね?」
「じゃあ────」
手を伸ばし、抱き締めるようにして花束を抱えた。
思っていたより重たくはなくて、わたしの腕にすっぽりおさまった。
「ありがとう」
そう言うと、ほっとしたような、それでいて満足そうな微笑をたたえた大和くんがわたしの隣に腰を下ろす。
ふと表情を引き締めると、真剣な眼差しをこちらに向けた。
「……ねぇ、いまの俺たちって何なのかな」
ただの友だちとも幼なじみとも言えない、曖昧な関係だった。
また、約束があっても、想いがあっても、恋人とまではいかない。
「風ちゃんはなにを迷ってるの?」
「…………」
「もしかして、越智のせい?」
「それは……でも、それだけじゃないよ」
自分でも手に負えない疑惑と違和感が、純粋な喜びやときめきを上回っている。
それらを無視できるほど、いっそ盲目的になれたら楽だろうけれど────。
「じゃあ、いまの俺をよく知らないから……なんてまだ本気で思ってる?」
以前、口にした言葉を思い出す。
今日をふたりで過ごして、確かにあのときより彼のことを深く知れたような気がする。
だけど、それとはまた別のところで“大和くん”という人物像を見失いかけている。
「…………」
さすがにそうとは言えなくて、また口を噤んだ。
途切れることのない眼差しを受けて身じろぎできないでいると、彼が身体ごとこちらに向き直る。
「……いいよ。なら、教えてあげる」
包み込むようにして頬に手が添えられた。
大和くんの綺麗な顔が間近に迫ってくる────。