(こんなんじゃ、もし大和くんが大和くんじゃなくても気づけない)
それはほとんど無意識に湧いた考えだった。
自分で自分に戸惑う。
(……ありえない。なに考えてるんだろう、わたし)
かぶりを振ってみても、否定しきれなかった。
絡みついて離れないのは、萌芽した小さな違和感を見逃せないでいるからだろう。
わたしたちにある共通の記憶は、結婚の約束をした日の思い出だけ。
彼はちゃんと覚えていた。
だから、大和くんとの再会が夢のようだった。気持ちが変わっていないと分かって嬉しかった。
(でも、悠真も知ってた……)
どれほどかは不明だけれど、少なくともわたしたちの仲や大和くんの想いは以前から知っていたみたいだった。
あの日のことや約束のことは、わたしや大和くんじゃなくても知っている可能性がある。
ということは、その思い出を口にできたからって“彼”が大和くんとは限らないのだ。
(……なに、それ)
感情が思考に追いつかない。
動揺して瞳が揺らいでしまう。
沈み込むように鳴った心音が重たく響いた。
ありえない、ともう一度思ったけれど、違和感は居座ったままだ。
むしろ先ほどよりも存在感を増している。
眉を寄せたまま、彼を見上げた。
(だって、それなら……この人は誰なの?)
具体的になにが引っかかっているのか、まだ疑惑の底の部分までは見通せない。
だけど、やっぱり何やら違和感がある。それは確かだった。
記憶の中にいる幼い大和くんの姿を思い起こす。
離れ離れになってから10年近くが経っている。それだけの月日が流れれば、多少なりとも顔立ちは変わるだろう。
面影はあると思うけれど、確信は持てなかった。
パーツごとに見ると、確かにこんな感じだったかもしれない。
目の前の大和くんは、記憶の中の彼の特徴を兼ね備えていると思う。
(……だめだ)
純粋に比較しようとしても、なかなか叶わなかった。
どうしても、いまの大和くんの姿で上書きされてしまう。
見るほどに昔の大和くんの記憶が薄れていくような気がした。
性格はどうだろう?
大和くんは優しかった。目の前の彼もそんな感じ────。
「……どうかしたの? そんなに見つめて」
さすがに訝しんだように、彼が首を傾げる。
はっとして咄嗟に貼りつけた笑顔はぎこちなくなった。
「な、何でもないよ」
「そう? 言いたいことあるなら、遠慮しないで何でも言ってね」
柔らかい物腰、穏やかな声、いつも通りの大和くんのはずだけれど、不穏なことを考えたせいか、妙に落ち着かない。
彼のたたえた笑みにも翳りが垣間見えた。
苛立ちのような、焦りのような、いずれにしても彼らしくない感情が見え隠れしている。
「……?」