体育祭が終了したのは午後3時すぎ。
 生徒のほとんどが下校した中、私はキングの3人とラウンジでテーブルを囲んでいる。
 

 私としーちゃんが保健室で待機している間、閉会式では競技の合計得点が発表されていた。
 御幸くんとすばるくんから詳しく話を聞くと、A組420点。E組415点。
 僅差ではあったけれど見事A組が勝利し、優勝トロフィーを手に入れることができたとのこと。あ~本当に良かった!
 そして【OQu(オーキュー)】の応援タップ数は、何と3年A組がダントツ1位!!
 心配していたしーちゃんへのパタパタは、あの一件で減るどころか、さらに増えたようだった。
 リレーでの男らしい言動が、女の子だけじゃなく男子も虜にしちゃったみたい。


 名実ともに『キング』の称号をつかみとった3人。
 本当は手をとり合って大喜びしたいとこだけど、私はその前に、御幸くんとすばる先輩に謝らなくちゃいけないんだ。

「ごめんない! せっかくクイーンに選んでもらったのに、2人にメダルをかけに行けなくて……」

 ちょっと無理をしてでも、表彰台に駆けつけるべきだったかもって。
 後になってから、申し訳ない気持ちがこみあげてきた。

「セリちゃん、気にしないで。怪我もひどかったし、あの状況なら仕方ないって」
「そうそう。だってまた次のイベントで、芹七ちゃんにはお願いするもん♡」

 うぅ……2人とも優しすぎる。

「ありがとうございます」

 笑顔で答えてはみたものの、3人にもらった赤いリボンのヘアアクセを思うと、この場にいるのでさえ忍びない。

「だったらさっ」

 すばる先輩が何かを思いついて、悪戯っぽい瞳をむけてきた。

「クイーンからのご褒美だけちょうだいよ♡」
「えっ? ご褒美って……ほっぺにキスのことですか?」
「そう、今からでも遅くないから」

 小悪魔っぽい笑顔で迫られて、私はタジタジになる。
 すばる先輩……ホンキで言ってる? この場所で?
 あ~でも。約束は約束だし……。
 どうしたものかと困っていると、しーちゃんがそっと私の左手を引きよせる。

「すばる、それ却下。セリはもう僕の彼女だから」

 そして指をからめて恋人つなぎし、わざと見せつけるみたいに自分の口もとに手を近づけた。
 うわ~……しーちゃんが……しーちゃんが甘すぎる! 

「え~!? やっぱそういう事になっちゃったわけ?」

 要求を退けられて、すばる先輩は脱力。
 座っていた椅子の背に、倒れるように斜めにもたれかかった。

「あ~何だよ~。さっき御幸に、2人が幼なじみだって聞いたばっかなのに! どうしてもう恋人同士になっちゃうの~」

 すばる先輩のそんな嘆きを受けとめるように、横にいた御幸くんはゆっくりと瞬きをする。

「2人がくっつくのは時間の問題だったからな。最初からすばるが入る隙間なんてねーの。……まあ、俺もだけど」

 そして冷やかし交じりの口調で、唇の端をニッとあげた。

「良かったな、セリちゃん。とりあえず胸の痛みはなくなりそうで」

 うん、御幸くんには感謝しかない。
 しーちゃんが他の女の子と一緒にいるのを見て、私が苦しいって感じた時。
 なぜなんだろうって考える切っ掛けを、御幸くんがくれた。
 あのとき背中を押してもらえなかったら「しーちゃんを男の子として好き」って、私が自分の気持ちに気づくのは、もっと後だったと思うんだ。


「それじゃあ、改めて。俺らA組の優勝と、じれったい幼なじみの恋愛成就を祝って――乾杯!!」

 私たちはペットボトルのジュースを高々とかかげて、改めて勝利をお祝いした。
 少しして、E組の『ナイト』たちが通りかかり、黒崎先輩が輪をぬけてこっちに駆け寄ってくる。

「芹七……その……。足は大丈夫だったか?」

 勝負に負けて悔しいはずなのに、私を心配してくれる。
 やっぱり根は優しい人だ。

「もう大丈夫です。お騒がせしました!」

 私が元気よく答えると、黒崎先輩はホッとした表情ではにかむ。
 そしてクルッとしーちゃんの方を向いて、いつもみたいに眉をつりあげた。

「次のイベントは、ぜってー負けねー!! で、次こそオレらE組が、芹七から勝利のキスをもらう!」

 えぇ? ……またどうして、そんな話になっちゃうの??
 黒崎先輩ってば、負けず嫌いがすぎるでしょ。

「はいはい。やれるもんなら、やってみれば?」

 しーちゃんは黒崎先輩を横目に、大袈裟に呆れたような溜め息をつく。

「まあ、だからって。セリがお前のものになることは、一生ないけどね」

 言い捨てるような口調。
 あ~、しーちゃんも煽っちゃダメ!
 もうキングとナイトって、何でこんなにバチバチしちゃうの?

 まだ新年度は始まったばかり。
 これから続くイベントの勝負を想像すると、穏やかな学校生活はとうぶん送れないかな。


 【Fin】