この世界に滞在してひと月が経つ頃__
初日に新庄が話していた、薬について記された書物をやっとの思いで解読することに成功した。
そうして私は、慣れないものの薬の調合を始めた。
最初は少量の薬を患者に服用させ、回復の兆しがあれば量を調整していった。
そのおかげか、それまで話すこともままらなかった患者は自力で起き上がり食事ができるまで回復した。
__だけれど、やはり薬の調合や内科医として患者を診ることには慣れない。
「新庄様、患者様が、お1人、無事に完治されました。」
「そうか。それは善いことだ。感謝する。」
「あの、これ、その患者様の御家族から頂いたもので、新庄様に、と。」
「む…?何か説明はあったか?」
「つまらないものですが、と。」
新庄は、箱をまじまじと見つめると、紐を解いて中身を開けた。
「饅頭だな。…」
「饅頭…」
箱の中には1つ、手のひらサイズくらいの饅頭が入っていた。
きっと、近くの饅頭屋で買ってきたのだろう。
新庄は、箱の中の饅頭を取り出し、手で半分に割った。
「半分食うと良い。」
「え、?」
「では、先に頂こう。」
私が受け取るのを渋っていると、新庄はもう半分の方の饅頭を口に入れた。
「こし餡だな。大丈夫。何も毒は入っていない。」
新庄は、私が饅頭に毒が入っているかもと思い受け取るのを渋っていると思ったらしい。
私は饅頭を受け取ると、1口、口に入れてみた。
「……」
「どうだ?美味いだろう?」
「…美味しい。これ、」
こんなに甘いものは初めて食べた。
口の中に仄かな甘みと香りが広がる。
饅頭。
私はその日初めて、好きな食べ物が出来た。
そんな日々を送っていたある日の夜。
その日は不思議なことに全く睡魔が来なかった。
このまま朝まで天井を見上げていても仕方がない。
私は布団から起き上がり、夜風にでもあたりに行こうと思い部屋を出た。
「さむっ…」
城の廊下は肌寒かった。
それに、ほとんど明かりがないためほぼ闇だ。
「こんな時間にどこへ行く。」
「ひぇっ!…」
驚いて振り返ると、そこには片手に提灯を提げた新庄がいた。
「あ…新庄様…」
「わたると呼べ。恭しいが、気軽に話せる相手の方が善いだろう。私の家臣達も皆、わたると呼んでいる。」
「もしかして、貴方も眠れないのか?」
「…はい。」
「これから夜風に当たろうと思うが、貴方も如何か?」
新庄は、私と同じ理由と目的で起きてきていた。
私は小さく頷くと、新庄が手を伸ばしてきた。
「貴方を見ていると、そそっかしい所があるように思える。よく転倒しかけているだろう?…」
私は、彼の優しい声と差し伸ばされた手にどう対応して良いものか分からず、しばらくあたふたしていた。
すると、痺れを切らした新庄が、私の手を取った。
「手を差し伸べられたら、こうやって繋ぐのが鉄則だ。」
私は、その彼の言葉に一瞬だけモヤモヤした。
他の人にも同じようにしているのだろうか。
……していない訳がないか。
人に対して、ここまで関心が湧いたのは初めてだ。
私は、彼に色々聞き出そうにも、自分から何かを質問することが大変恐ろしかった。
そんなモモコの様子を、新庄は物憂げな表情で眺めていた。
初日に新庄が話していた、薬について記された書物をやっとの思いで解読することに成功した。
そうして私は、慣れないものの薬の調合を始めた。
最初は少量の薬を患者に服用させ、回復の兆しがあれば量を調整していった。
そのおかげか、それまで話すこともままらなかった患者は自力で起き上がり食事ができるまで回復した。
__だけれど、やはり薬の調合や内科医として患者を診ることには慣れない。
「新庄様、患者様が、お1人、無事に完治されました。」
「そうか。それは善いことだ。感謝する。」
「あの、これ、その患者様の御家族から頂いたもので、新庄様に、と。」
「む…?何か説明はあったか?」
「つまらないものですが、と。」
新庄は、箱をまじまじと見つめると、紐を解いて中身を開けた。
「饅頭だな。…」
「饅頭…」
箱の中には1つ、手のひらサイズくらいの饅頭が入っていた。
きっと、近くの饅頭屋で買ってきたのだろう。
新庄は、箱の中の饅頭を取り出し、手で半分に割った。
「半分食うと良い。」
「え、?」
「では、先に頂こう。」
私が受け取るのを渋っていると、新庄はもう半分の方の饅頭を口に入れた。
「こし餡だな。大丈夫。何も毒は入っていない。」
新庄は、私が饅頭に毒が入っているかもと思い受け取るのを渋っていると思ったらしい。
私は饅頭を受け取ると、1口、口に入れてみた。
「……」
「どうだ?美味いだろう?」
「…美味しい。これ、」
こんなに甘いものは初めて食べた。
口の中に仄かな甘みと香りが広がる。
饅頭。
私はその日初めて、好きな食べ物が出来た。
そんな日々を送っていたある日の夜。
その日は不思議なことに全く睡魔が来なかった。
このまま朝まで天井を見上げていても仕方がない。
私は布団から起き上がり、夜風にでもあたりに行こうと思い部屋を出た。
「さむっ…」
城の廊下は肌寒かった。
それに、ほとんど明かりがないためほぼ闇だ。
「こんな時間にどこへ行く。」
「ひぇっ!…」
驚いて振り返ると、そこには片手に提灯を提げた新庄がいた。
「あ…新庄様…」
「わたると呼べ。恭しいが、気軽に話せる相手の方が善いだろう。私の家臣達も皆、わたると呼んでいる。」
「もしかして、貴方も眠れないのか?」
「…はい。」
「これから夜風に当たろうと思うが、貴方も如何か?」
新庄は、私と同じ理由と目的で起きてきていた。
私は小さく頷くと、新庄が手を伸ばしてきた。
「貴方を見ていると、そそっかしい所があるように思える。よく転倒しかけているだろう?…」
私は、彼の優しい声と差し伸ばされた手にどう対応して良いものか分からず、しばらくあたふたしていた。
すると、痺れを切らした新庄が、私の手を取った。
「手を差し伸べられたら、こうやって繋ぐのが鉄則だ。」
私は、その彼の言葉に一瞬だけモヤモヤした。
他の人にも同じようにしているのだろうか。
……していない訳がないか。
人に対して、ここまで関心が湧いたのは初めてだ。
私は、彼に色々聞き出そうにも、自分から何かを質問することが大変恐ろしかった。
そんなモモコの様子を、新庄は物憂げな表情で眺めていた。