城の最上階へ案内された。

階段をのぼり、大きな部屋に入ると、新庄は部屋の中央にある座布団に腰掛けた。

「そこに座れ。スミ、茶を頼む。」

新庄は、私の後ろにいた男にそう命令した。

「…あの、私を、どうしてここに、」

「珍しい人だったのでな。今どきそのような格好は見たこともない。そなたはどこから来た?」

新庄の問いに、私はしばらく黙り込む。


そもそも、ここがどこなのかも分からない。





「私、多分、ここの世界とは、違うところから、」


「む?それはどういう意味だ?」




私は、薄々感ずいていた。
ここはきっと江戸時代くらいの世界だ。




__その証拠に、目の前には、かの有名な新庄竟がいる。


そう、信じられないがタイムスリップをしてしまったのだろう。


それしか、今のこの状況に合う辻褄が無かった。



「タイムスリップ、だと、思い、ます」



周囲は黙り込んだ。
そりゃあそうだ。突然現れて、「タイムスリップ」とかいう意味不明な言葉を言い放ったのだから。

私は、人の前で言葉を話すのは苦手なため、途切れ途切れでしか言葉を紡ぐことが出来なかった。



「ふむ…よく分からないな…。そなた、名をなんという?」



「…大山、モモコと申します。職業は、医者です。脳神経外科医、です。」


「医者か。…実はな、ここの城の地下に熱病に苦しむ患者を隔離している。薬の調合の書物はあるのだが、誰も解読できなくてな。もしかするとそなたなら、あの患者達を助けられるやもしれん。」

やはりこの時代は、脳神経外科医などいるはずもなく、医者=内科医 のような感覚だったのかもしれない。

ただ、私は国家試験を受ける際、薬の勉強も多少はしていたため、書物さえ解読できれば調合くらいなら出来るかもしれないと思った。




「…はい。」



「感謝する。…それより、そなたの話を聞いていると、貴方には行く宛てが無いように感じた。しばらく、ここに身を置くというのはどうだ?」



新庄は私にそう言うと、家臣に何やら合図を送った。



すると、一人の家臣が綺麗に畳まれた着物を持ってきた。

「…どうぞ。お召しになられてください」





「…え、きも、の?」



「あぁ。その格好ではやはり目立つだろう。」

「でも、良いのですか…」

「この城にはかつて多くの侍女が働いていたが、皆辞めて行った。今ではこの城に女は一人もいない。着物だけが余剰している。」



「…ありがとうございます。」

私が着替えようと立ち上がった時、襖が開き、先程お茶を入れてこいと命令された男が入ってきた。

「わたる殿。お茶をお持ちしました。」

「スミ、ありがとう。」

見ると、お盆には2つ筒茶碗が置いてあり、湯気がもくもくと空中を揺らいでいた。




「着替えが済んだら、ゆっくり茶を飲もう。」


「…はい。ありがとうございます。新庄、さま」

「礼には及ばん。」


その後、家臣に案内され、着替えのために別室に連れて行かれた。

別室と言えど、新庄の大部屋にそのまま繋がっている部屋で、襖が無ければ同室だ。