私が今立っている場所は、住宅街の1軒なんかではない。

平屋の小さな古民家だった。

私は、民家の扉の前で、知らない人と意味不明な会話をしていたのだ。

パニックになり後ろを振り返ると、たくさんの人が群がって私の方を不思議そうに眺めていた。

その誰もが着物を着ており、刀を腰に据えた人もいた。
私は驚きのあまり、手に持っていたカバンを落とした。


「あの子、外国の方かしら?珍しい格好ね。」

「モノノ怪の類かもしれぬ!」

「変な子もいるもんだねぇ…」


人々は、口々にそう呟いていた。











(わたる)様だ!道を開けろ!」

一人の男が、大声でそう叫ぶと、人々は道端に集まり、道を作った。

南の方角から、何やら大勢の武士のような集団が馬に乗ってこちらへ向かってきている。

「この目でお目にかかれるとは…光栄だ…光栄だ…」

人々の関心は、すぐにその竟という人物へ切り替わった。

「あ、あの人、」

私は、その集団の先頭にいる人物を見たことがあった。
高校の歴史の教科書に、確か載っていた気がする。

名前は、新庄竟(しんじょう わたる)
多くの敵陣を制覇し、戦闘能力に長けていた。

そして、その若さと美貌は有名で、180cm越えの身体に、整った黒髪、麗しい瞳、長い睫毛、そして、噂によれば、中低音の心地よい声まで兼ね揃えていたという。


「む…?あの者は何者か」

ふと、新庄は私の方を見てそう言った。

「私…?」

新庄は、馬から下りると、私の方へ近づいてきた。

「珍しい人だ。どこから参った?」

「……。え、っと、」

「うむ…。興味が湧いた。この者を城まで連れて行け。」

「し、しかし、竟(わたる)殿。」

「善い。郵蘭(ゆうらん)、連れて行け。」

新庄の家臣らしき人物は、しぶしぶ私を馬へ乗せて再び道を進み始めた。

私は、もはや物事を考えることさえ出来なくなっていた。