「……まことに残念ですが、もって半年だと。」

新庄が18歳の誕生日を迎えた月に、風邪を引いていた母親の容態が急変した。

「…そんな、母上…」

「わたる、貴方は、とても優しい子です。お父さんによく似ている。……武士に嫁ぐ女として価値の薄かった私のことを、お父さんは大切にしてくれました。…だから貴方も、いつか愛する人ができたら、大切にしなさい。わたる。」

「…はい。母上。…」

「…住吉、貴方も立派な子です。真面目で、何事にも誠心誠意やり込む精神力を持っています。……あなたはもう、私の本当の息子です。」

「…はい。…ありがとう、ございます。…」

母親の手の力が弱くなる。
それでも新庄は、強く握りしめた。

「わたる、お父さんが帰ったら、伝えておいて欲しい。貴方のことを愛しているって、そう、伝えて欲しい。」

「…承知しました母上。父上に伝言しておきます。…母上、私を産んでくださり、ありがとう。」





母親は、ゆっくりと微笑むと、そのまますーっと眠りにつくように息を引き取った。__









「父上、母上がこう申しておられました。」

「…そうか。……」

その日、新庄は初めて武士の父親の涙を見た。


住吉はというと、泣きじゃくり、着物が涙で水浸しになっていた。

葬式の際にも、住吉は泣き止むことは無かった。




「スミ、泣くでない。母上は、私たちの笑顔が見たいはずだ。」



「はい…兄、殿……。」







「スミ………?……決まった。スミと呼ぼう。たまに、住吉に戻るかもしれないがな。」