遡ること10年前、新庄がまだ18歳の頃だ。
刀の訓練をしていた際、突然新庄の庭に逃げ込んできたのが住吉だった。

住吉は泥傷だらけで、助けを乞う様子だった。



「そこのお方、如何したか?」



「たす、助けて…助けてください、」



住吉によると、両親に虐待を受け、必死に逃げてきた所だったという。


「母上。父上、住吉を私の弟として、家族として迎えることは可能でしょうか。」

新庄は、一人っ子だったこともあり、兄弟という存在は憧れであった。それに何よりも、辛い境遇の住吉を助けてやりたかった。

新庄の両親は、最初こそ渋ったものの、新庄の熱い説得により新庄家に住むことが許された。

新庄は元々武士の家系であった。
彼の父親は、武将の中でも特に力を持った人だった。
母親は、元々体が弱く、病気がちであった。
そして、新庄が20歳の時に肺炎の悪化でこの世を去った。








「住吉、箸を持ってきてくれないか。」

「はい!兄殿!」

「…だから、そこまで高尚になる必要は無いと言っているだろう。」

「いえ、こうでもしないと落ち着きません。兄殿は俺の命の恩人ですから。」

齢17歳の新庄は、そうかと言って微笑んだ。

「…住吉、では、私もお前の呼び名を考えるとしよう。」

「え…兄殿が?」

「あぁ。」

新庄は、しばらく頭を悩ませた。

「わたる、お箸が止まっているわよ。」

母親が、小さく咳き込んだ。

「…あぁ、すみません母上。」

「わたる、仲が良いのは良いがな。食事の時には食事に集中しなさい。」

髭を蓄えた姿勢の良い父親が、住吉にそう言った。

「はい。父上。」