「……何故居場所が分かった。新庄竟。」



「隠れるなら、もう少し賢明な場所にすれば良かったものを。……なぁ、郵蘭。」


「お前達も、この女を匿ったのにも裏があるんだろう?お前は情に薄い。それは俺がその目で見た。……あの日の争い……何十人もの家臣を見捨てて、お前だけ逃げた。……」


「無礼者!兄殿にそのような口をきくでない!」

住吉は叫んだ。



「…スミ、この男の相手を頼む。」

新庄は、住吉にそう言うと馬を降り、モモコの元へと向かった。





「…モモコ殿、モモコ殿、私が分かるか?」


誰かに体を大きく揺さぶられた。




「出血が酷い…」



新庄は、自身の懐から布を取り出し、私の頭を押さえつけた。


モモコの頭に、傷口に釘を打たれたような激痛が走る。



布をそのまま頭に巻き付けると、新庄はモモコの身体を抱き抱えた。






「兼久住吉(かねひさすみよし)…。」

郵蘭は言った。

「苗字で呼ぶでない。」

住吉は、刀を構え、鬼のような形相で郵蘭を睨んでいる。



「お前と新庄は、血の繋がりもない偽の兄弟。赤の他人を兄と呼んで、ごっこ遊びのつもりか?」


「郵蘭、貴様、何故裏切った。」


「住吉。俺みたいな馬鹿野郎の1人や2人、城の中にいないとでも?僕はね、最初からこれを目的として、新庄に仕えているフリをしていたんだ。家臣としてな。」

郵蘭は、両手を大きく広げ、高らかに笑った。

「いいか?幕府からの塵みたいな給料なんかより、人1人の肉を売った方が金儲けになるんだよ。殺して布袋に入れるだけで、100両以上儲けることが出来る。」





住吉は、静かに刀をしまった。



「そうか…それは良いな。俺も仲間に入れてくれよ。」

住吉は馬から降り、郵蘭に近寄った。


郵蘭は、ニヤリと笑った。



住吉のその手が、刀に添えられているとは気が付かずに。__

「住吉!貴様は最高だ!さぁ、仲間になろ、」

グサッと筋の弾けるような音がした。
郵蘭は、腹を抑え地面に倒れた。

「こんな傷では死ぬまい。致命傷は、みぞおちの部分だ。…ここだ。ここ。」

住吉は、郵蘭のみぞおちを足で何度も蹴った。



周りの仲間たちは、事の重大さに気がつくと途端に怖気付き、後ろに引き下がった。

「お前たち、郵蘭と周りの男を縛れ。諸共牢に入れる。」

「はい。住吉様。」

家臣たちが一斉に動く。

郵蘭を縄で縛り終える時には、住吉はもう既に、ほかの男達の腹にも同じように刀を突きつけていた。




「兄殿、男たちを拘束しました。」

「連れ帰れ。」

「承知致しました。」

「モモコは辛うじて呼吸をしている。急がねば間に合わない。」

新庄は、モモコを抱き抱えたまま馬に乗り、城へと急いだ。