このオレ・鹿島実(かしまみのる)が所属するチームの総長が、音信不通になった。
 うちの総長(そうちょう)が学校をサボるのは珍しいことではないが、副総長の京也(きょうや)さんの電話に出ないのは珍しい。何かあったのだろうか。
 放課後になり、雷悟(らいご)さん(総長)の家に行ってみようかと考えながら校門に向かっていると、
「おーい、実ー!」
とオレを呼んだのは、同じチームの幹部(かんぶ)翔夜(しょうや)さんだ。その(となり)には、京也さんもいた。
 オレは京也さんたちのいるところまで走って行った。
「どうしたんスか?」
「なんか、お前()ての手紙(てがみ)落ちてた」
「手紙?」
 京也さんから白い封筒(ふうとう)を受け取った。
 表のツルツルのところには『鹿島実くんへ』とオレの名前が書かれていた。(うら)(ふた)には、赤いハートのシールが貼られていた。その下には『ルリ子』と差し出し人のものらしき名前がかかれていた。
 これは……! 俗に言う、ラブレターというやつか? 
 ……オレに……ラブレターが来たというのか!?
 前代未聞の大事件に、日本中(オレの身体(からだ))が震撼(しんかん)した。
「お前、何(ふる)えてんだ」
 京也さんにツッコまれた。
「生まれたての子鹿(こじか)みてぇ」
 翔夜さんには笑われた。
「しょうがねーじゃないっスか!! オレ、今までカノジョとかレンアイとか、まったく(えん)がなかったんスから!!」
 ()ずかしさをごまかすために声を(あら)げて叫んだが、京也さんはオレをバカにするようにほほ笑みを浮かべ、翔夜さんは余計に笑った。
(みのる)はウブだなぁ」
 と翔夜さん。
「早く中身見てみろよ」
 と京夜さん。
 この二人はクール系(京也さん)と腹黒(はらぐろ)系(翔夜さん)でタイプが違うが、共通しているのは、どちらもドSだということだ。
 言われた通り、封筒(ふうとう)を開けて手紙を読む。

『実くんへ
 お話したいことがあるので、放課後相川(あいがわ)河川敷(かせんじき)に来てください
 ルリ子』
 
「お話したいこと」ってなに!? まさか、あれか! 告白かぁ!!
 気が高揚(こうよう)するオレに対し、手紙を(のぞ)きこんだ京也さんは冷静(れいせい)に言った。
「てかこれ、雷悟(らいご)の字じゃん」
 京也さんの一言に、オレの(ねつ)は一気に冷えこんだ。
「え……」
 これ、雷悟さんが書いたやつなの? ただのイタズラ?
「あいつ……これのためにわざわざ学校サボったってことか?」
「はぁ? 何考えてんだ、あいつ」
 翔夜さんは(あや)しんで言い、それに京也さんはあきれた。
「まあでも、面白そうだし行ってみれば?」
「……そうっスよね。まだ相手が雷悟さんだと決まったわけじゃないし」
 行ってみることにした。


 そろそろかな? 作戦を()ったオレは、校門前に手紙を()いて以降、告白場所である相川沿()いの河川敷で、電子書籍(しょせき)のマンガを読んでいた。
「あ、あの……」
 来た! 実だ。
 オレはやつを見て、立ち上がった。
「もしかして実くん?」
 正真正銘、女の子のかわいい声だった。知ってるけど一応。
「は……はい! ……ルリ子さんですか?」
「そうだよ!」
 実はこおったみたいにカチンコチンになって、ぎこちなく話す。
 どうやらバレていないようだ。
 やつからだいぶ(はな)れた堤防(ていぼう)の上に、見知った顔の虫二匹が座って観覧(かんらん)してやがるから、感づかれたのかと。
 特に左の、ほほ笑みながら携帯(けいたい)かまえてるやつ(翔夜)がムカつく。もう一人の、品定めするようにじっくり見てるやつ(京也)もムカつくけど。
「……それで……話って?」
 来た。視線(しせん)(みのる)(ひとみ)に集中する。
「……」
 しかし、すぐに下を向いてしまった。何も言えずに。
 思ってたより()ずいな……。
 でもこのまま取りやめるわけにもいかない。恥ずかしいのを(こら)えて、再び顔をあげた。
「……す……好きです。……わたしと……付き合って……ください……」
 ……言えた。顔が火照(ほて)るくらい、すっげぇ恥ずかしいけど。
「あー、恥ずかしいなー! こんなはずじゃなかったんだけどなー!」
 グダグダだった告白を挽回(ばんかい)するように、(ほが)らかに言った。やつの顔が見れない。
「――オレで……よければ……」
 成功した。やっぱ、バレてなかったか。
 オレは()(かく)しと愛情(あいじょう)の印として、やつを抱きしめた。けっこう長い間。
 ウブな実は()えきれなくなって、(さけ)んだ。
「ゼッテーちげぇぇぇぇ!!!!」
 なんだ、疑ってはいたのか。あいつらのせいか。
 オレは実をはなした。実は四つんばいになって叫んだ。
「うちの総長が、うちの総長がこんなかわいいはずがねぇぇぇぇ!!!!」
 なんかムカつく。いつものオレがかわいげのねぇ野郎だとか思ってるみてぇだ。