♧ ♧ ♧
逃げた先は、緑化委員会の教室。FORESTの根城だ。
中に入ると、大きく段差のある畳スペースに上がり、黒板のすぐ手前にある緑色のソファの上に降ろされた。
どうして学校の教室にそんなスペースがあるのか不思議だが、今のわたしにはどうでもいいことだ。
燃え尽きたわたしは、真っ白な灰となって、動けなかった。
「わっちゃん!」
ルミィが畳の上にあがって、わたしのかたわらに座った。
「ルミィ……」
ダメだ。本当に力が尽きて、起き上がれない。
ルミィは、わたしの頭の背後に移動し、―― 頭を膝の上にのせた。
「ありがとぉ、わっちゃん。 ありがとう」
ルミィはやさしい声でそう言って、横向きになっているわたしの頭をやさしくなでた。
まさか、聞かれていたなんてな……。決まりが悪い。
「和女」
葉もわたしの頭の近くに座った。
「よく言った! カッコよかったぞ!」
そういって葉も、わたしの頭をなでていつもの笑顔を見せた。
なんだかわたし、二人の子どもみたいだ。
でも、それが引き金になったらしい。
安心しきったわたしの目から、涙がぼろぼろ零れてきた。
わたしは葉の手をどかし、起き上がって、この部屋を後にする。
「助けてくれてありがとう」
しかしルミィは、わたしをぎゅうと抱きしめて離さない。
「待ってよ、わっちゃん」
「SOLARに見つかったら、もっと大変なことになるかもしんないから、しばらくここにいて」
葉の説得を聞いて、わたしは動きを止めた。
「わっちゃん」
ルミィを見ると、ソファに反対向きに座って「ここに座れ」とアピって来ている。
指示通りに座ってやった。ルミィとおんなじ向きに。
「ちがうちがう! 逆だよ」
「人前でそれは無理だよ」
「もう、いいや」
観念したルミィは、後ろからぎゅっとわたしを抱きしめた。
柔らかくて……あたたかい。
「……わっちゃんは、とっても強くて、とってもやさしい子だね」
ルミィはわたしの耳元でささやいた。愛情に溢れたやさしい声と言葉とぬくもりが、さらにお涙を頂戴する。
さっきまでの恐怖が嘘のよう……。
わたしは体の向きを横に変え、ルミィの胸元にほほを寄せて、涙を流した。
まるで、母に甘える幼子のように。
「はーい。みんな〜座って〜、総長に注目〜」
葉と一緒に救出に来てくれたイケメン女子が、いつの間にか集まっていたFORESTのメンバーたちに呼びかける。
葉はソファに座っていた。
……彼女ってもしかして……。
わたしは葉とはよくつるむ(というか葉の方からつるんでくる)が、FORESTの内情は全く知らない。葉は何も話さない。
葉は事のあらましを皆に簡潔に伝えた。
「ワケあってSOLARの根城に攻め入って、ちょっとした騒動を起こしちゃったから、
この先奴らに敵にされるかもしれない。
すまないが、用心してくれ」
葉の言葉に、イケメン女子が口を開いた。
「いいや、悪いのは葉じゃねぇ。奴らが先に手ェ出してきた。ウチらの姫を怖い目にあわせたんだ。致し方ねぇ」
ひ、姫!? わたしが!?
葉は「ありがとう」と笑顔を見せると、今度はルミィを見て尋ねた。
「ルミィ、明日の鍋パーティーは行くの?」
聞かれてルミィは「ギクッ」と慌てた。
「あ……え……えっとぉ〜、……行こうかな。才賀くんだけじゃないし」
ルミィは、しどろもどろながらも答えた。
「そう。べつに、悪くいうつもりはないんだけどさ、今回の事件でギクシャクしたパーティーになりそうだなって。
まあ、ルミには関係ないことだし、ルミのことを溺愛する三人が、好きな人の前で野暮なことは言わないでしょ。
でも、もし修羅場な鍋パーティになるんだったら、すぐに帰ったほうがいいよ」
葉の言葉に、ルミィはほほえんで言った、
「……わかった。ありがとう、気にかけてくれて」
でもその笑顔は、いつもの腹の読めない満面の笑みじゃなかった。
どこか迷いを抱いているような、そんな曖昧な笑みだった。
……揺らいでる。ルミィは今、揺らいでいるのだろう。
完璧美少女の化けの皮を脱ぐか脱ぐまいかと。恐らくだけど。
逃げた先は、緑化委員会の教室。FORESTの根城だ。
中に入ると、大きく段差のある畳スペースに上がり、黒板のすぐ手前にある緑色のソファの上に降ろされた。
どうして学校の教室にそんなスペースがあるのか不思議だが、今のわたしにはどうでもいいことだ。
燃え尽きたわたしは、真っ白な灰となって、動けなかった。
「わっちゃん!」
ルミィが畳の上にあがって、わたしのかたわらに座った。
「ルミィ……」
ダメだ。本当に力が尽きて、起き上がれない。
ルミィは、わたしの頭の背後に移動し、―― 頭を膝の上にのせた。
「ありがとぉ、わっちゃん。 ありがとう」
ルミィはやさしい声でそう言って、横向きになっているわたしの頭をやさしくなでた。
まさか、聞かれていたなんてな……。決まりが悪い。
「和女」
葉もわたしの頭の近くに座った。
「よく言った! カッコよかったぞ!」
そういって葉も、わたしの頭をなでていつもの笑顔を見せた。
なんだかわたし、二人の子どもみたいだ。
でも、それが引き金になったらしい。
安心しきったわたしの目から、涙がぼろぼろ零れてきた。
わたしは葉の手をどかし、起き上がって、この部屋を後にする。
「助けてくれてありがとう」
しかしルミィは、わたしをぎゅうと抱きしめて離さない。
「待ってよ、わっちゃん」
「SOLARに見つかったら、もっと大変なことになるかもしんないから、しばらくここにいて」
葉の説得を聞いて、わたしは動きを止めた。
「わっちゃん」
ルミィを見ると、ソファに反対向きに座って「ここに座れ」とアピって来ている。
指示通りに座ってやった。ルミィとおんなじ向きに。
「ちがうちがう! 逆だよ」
「人前でそれは無理だよ」
「もう、いいや」
観念したルミィは、後ろからぎゅっとわたしを抱きしめた。
柔らかくて……あたたかい。
「……わっちゃんは、とっても強くて、とってもやさしい子だね」
ルミィはわたしの耳元でささやいた。愛情に溢れたやさしい声と言葉とぬくもりが、さらにお涙を頂戴する。
さっきまでの恐怖が嘘のよう……。
わたしは体の向きを横に変え、ルミィの胸元にほほを寄せて、涙を流した。
まるで、母に甘える幼子のように。
「はーい。みんな〜座って〜、総長に注目〜」
葉と一緒に救出に来てくれたイケメン女子が、いつの間にか集まっていたFORESTのメンバーたちに呼びかける。
葉はソファに座っていた。
……彼女ってもしかして……。
わたしは葉とはよくつるむ(というか葉の方からつるんでくる)が、FORESTの内情は全く知らない。葉は何も話さない。
葉は事のあらましを皆に簡潔に伝えた。
「ワケあってSOLARの根城に攻め入って、ちょっとした騒動を起こしちゃったから、
この先奴らに敵にされるかもしれない。
すまないが、用心してくれ」
葉の言葉に、イケメン女子が口を開いた。
「いいや、悪いのは葉じゃねぇ。奴らが先に手ェ出してきた。ウチらの姫を怖い目にあわせたんだ。致し方ねぇ」
ひ、姫!? わたしが!?
葉は「ありがとう」と笑顔を見せると、今度はルミィを見て尋ねた。
「ルミィ、明日の鍋パーティーは行くの?」
聞かれてルミィは「ギクッ」と慌てた。
「あ……え……えっとぉ〜、……行こうかな。才賀くんだけじゃないし」
ルミィは、しどろもどろながらも答えた。
「そう。べつに、悪くいうつもりはないんだけどさ、今回の事件でギクシャクしたパーティーになりそうだなって。
まあ、ルミには関係ないことだし、ルミのことを溺愛する三人が、好きな人の前で野暮なことは言わないでしょ。
でも、もし修羅場な鍋パーティになるんだったら、すぐに帰ったほうがいいよ」
葉の言葉に、ルミィはほほえんで言った、
「……わかった。ありがとう、気にかけてくれて」
でもその笑顔は、いつもの腹の読めない満面の笑みじゃなかった。
どこか迷いを抱いているような、そんな曖昧な笑みだった。
……揺らいでる。ルミィは今、揺らいでいるのだろう。
完璧美少女の化けの皮を脱ぐか脱ぐまいかと。恐らくだけど。