「いただきまーす!」
元気よく手を合わせて言う、とってもかわいい女子生徒。このワタシ、ルミエルは、朝日奈学園の食堂にて、お弁当を食べ始めるところだ。
ワタシが座っている席の周りには、同じクラスの最強男子三人が座っていて、みんな揃ってワタシに注目している。
三人とも整った顔をしているけれど、今の表情はやや引きつっていたり、呆れていたりしていた。
「みんな、浮かない顔してどうしたの?」
ワタシが尋ねると、淡い黄色とピンク色の可愛らしい姿をした宇左都くんが口を開いた。
「ルミ、ずっと思ってたんだけど、……ルミの弁当渋すぎない?」
「渋い?」
宇左都くんに続いて、上水流くんも口を開いた。
「そうだな。いかにも昭和の弁当って感じだ……」
今日の弁当は、しらすごはん&梅ごはん! モチーモチーごはん、エ・ル・ミヤー!!(半々ごはん最高ー!!)
「この弁当、ルミが作ってんのか?」
そう聞いたのは、才賀くんだ。
「ううん、友達に作ってもらってるの。料理スッゴク美味しいんだ〜」
そう言って、スプーンでちょうど真ん中の、梅としらすのミックスごはんをいっぱいにすくって、はむっと口に入れる。
あぁ、美味しい〜*
口いっぱいに広がる酸っぱい果実、ちょいと苦みを感じるもっさもさ。それをうまーくまとめあげる、やさしい甘さのごはんがたまんない……。
〝ごはんは人を笑顔にする〟をまじまじと体感しているこのワタシ。
すると宇左都くんが「あはは」と笑った。
「ホント、すっごい美味しそうに食べるよね〜」
ワタシは口にあるものを飲みこんでから口を開いた。
「うん、美味しいの。わっちゃ……友達の作るごはん!」
「隠さなくていい。黒地だろ」
それを言ったのは、才賀くんだ。
「黒地和女と同じ部屋だってことは知ってる」
「どうして?」
ワタシが尋ねると、上水流くんが答えた。
「ルミが編入してくるって時に、理事長に呼び出されたんだ。俺らと葉を加えた総長四人で」
つづけて宇左都くんが話を進めた。
「前代未聞の編入生が入ってくるんだけど、女子寮の空きが無くて困ってるって話になって、そこで葉ちゃんが和女ちゃんの部屋に入れるってことになったわけ」
「へぇ、葉くんが」
「俺は乗り気じゃなかったがな。和女は、人付き合いとか嫌いなタチだと思ってるから、寮まで他人と共同で暮らす羽目になるのは負担がデカいと思った」
「まあ、結局葉ちゃんの案が採用されて、今に至るんだけど」
「ていうか上水流くん、わっちゃんのことよく知ってるんだね」
「幼稚舎の年少から、ずっと同じクラスだったからな。かれこれ12年も顔をみている。才賀と葉もそうだ」
――そうなんだ。彼らは小さい時から、わっちゃんと一緒なんだ。……幼なじみっていうやつか。
「ボクは初等部の五年生から編入したんだけどね」
「あれ? 編入生は前代未聞だって言わなかった?」
ワタシの問いに、上水流くんが答えた。ちなみに才賀くんは、話には興味を持っておらず、ワタシに夢中になりながら食べている。
「ああ、中等部・高等部の編入試験は難関だ」
たしかに、難しい問題ばかりだった。まっ、ワタシは難なく解けたけど。
「だが、初等部の編入試験はそれなりの学力があれば突破できる」
スーパーエリート学園が求める〝それなり〟の学力ってのは、どんなもんか気になるが、S組の宇左都くんが突破できるくらいのレベルってのは分かる。
しっかし、モチーモチーごはん、エ・ル・ミヤー!!(半々ごはん最高ー!!)
わっちゃんは……このワタシが認める世界最高の料理人だよ〜。
「ルミはさ……」
ここでようやく、才賀くんが口を開いた。
「料理はするの?」
「…………」
禁断の質問が飛んで来た。こりゃあマズイ。
この一言が飛んできたことによって、騒がしい食堂が一気に静まった気がした。
そして美味しい半々ごはんの梅干しのすっぱさも、なんだか色あせたような気がした。
もちろん、料理は全くしない。それどころか、そんなもの、この世に生まれてきてからまともにしたことがない。
せいぜい調理実習や家庭科の課題くらいだ。でもそれも、ママやクラスメイトのサポートがあったし、ワタシ一人で作ったことなんてない。
編入前までママに、編入後からはわっちゃんに任せっきりだ。
それを言ってしまえば、「なんてだらしない女だ」とがっかりさせてしまうだろうなぁ。
こんな粗相を見せてしまえば、ワタシの完璧美少女の名に傷がついてしまう。
完璧美少女だからと気に入ってもらって、可愛がってもらっている彼らに失礼だ。
ワタシの14年の努力が、水の泡になって散ってしまうだろう。
それだけは避けなきゃ!!
「……う、うん! わっちゃんには遠く及ばないけど、少しだけ……簡単なものなら……作れるよ!」
なるべく動揺することのないように、笑顔で答えた。
ウソをつくのはしんどいし、大抵いい結果にならない悪手だが、致し方ない。
ワタシのだらしない本性が露呈して、みんなをがっかりさせてしまうくらいなら、自分の首に縄を括って、苦労した方がいい。
なるべく無理のない程度の、わりとゆるいウソを言ったから、なんとか誤魔化せるかな?
―― これはワタシの宿命だ。
すると才賀くんは微笑んで言った。
「オレに作ってくれないか?」
でましたぁ……。こう来ますよねぇ……。
好きな子が「料理ができる」なんて言ったら、食べたくなるに決まってますよね!!
でもねぇ、ワタシは言いました。
「わっちゃんには遠く及ばない」と! 才賀さまぁ、それでもワタシを選びますかぁ?
ここは言おう。
「で、でも、わっちゃんには遠く及ばないの! ……わっちゃんの料理は本当に美味しいの! わっちゃんに頼んで、みんなの分も作ってもらおっか?」
ごめんね、わっちゃん!! わっちゃんの負担をさらに増やしてしまう! こりゃあ、わっちゃんにも嫌われてしまいそうだけど、材料費諸々はワタシが負担するから!!
「いいや、ルミが作ったやつが食べたい」
才賀さまぁ〜!! どうしてワタシを選ぶんですか〜!! わっちゃんのよりもクソマズイものを!!
葉くんは「花より団子」だと聞いたけど、才賀さまは「団子よりも花」ですかぁ!?
性能云々よりも、花を優先するんですか花を!!
そんなんじゃいつか痛い目見ますぜ!!
毒とか盛られて氏にますぜ!!
ていうか、ワタシの料理に花なんてねーっつーの!!
アンタらが求める派手な料理なんて、作れねーっつーの!!
「ルミ、俺にも食わせてくれないか?」
上水流くん!
「ボクにも、ボクにも!」
宇左都くんも!
みなさん、正気ですか……? ワタシはわっちゃんじゃないんだよ?
「……さすがに、そんな大人数は作ったことが……」
「じゃあ、鍋パーティしようよ」
そう言ったのは、宇左都くんだ。
「鍋!?」
「うん、鍋なら切って煮込むだけだから簡単だよ。みんなでわいわい楽しめるし」
それならイケるかもしれない! 思わぬ助け舟がやってきた。
「おい、テメェら。何勝手に横入りしてんだ! 俺が先に頼んだんだぞ!」
才賀くんは、いつものように他二人に怒る。
「いいだろ。ルミはお前のものじゃないんだ」
「みんなで一緒に作った方が楽しいし、ルミの負担も大きく減るしね!」
宇左都くんの気遣いに感動だ! ありがとう〜、命の恩人よ〜!
「それは名案! 鍋パーティ、みんなでやろう!」
ワタシは宇左都くんの案に、手を合わせて賛成した。
「俺も賛成だ」
上水流くんもニッコリ笑って賛成してくれた。
「……わかった。ルミが賛成ならオレもだ」
才賀くんは不満げに言った。
「決まりね。――ところで、どこでやるの?」
「ボクの部屋でやろ!」
「え、ワタシが入っていいの?」
「女子が男子寮に入ることには問題ない。もちろん、逆は厳禁だ」
……それなら、いっか。
「じゃあ、明日。みんなでやろう!」
それに上水流くんが言った。
「どうしてだ? 材料なら、放課後に買えばいい」
「まあまあ、メイちゃん。楽しみなのは分かるけど、ルミは何か準備したいみたいだし、明日やろっか!」
宇左都くん! ありがとう! ホント助かる〜!
こうしてワタシは、最強総長たちとの鍋パーティをすることになった。
鍋パーティは、明日に迫る!
昼食を食べ終えると、即座にわっちゃんに連絡した。
『わっちゃん! 明日、総長たちと鍋パーティすることになった!』
『だから、今日の夜は鍋にしよ!』
『二日連続で鍋にするつもり?』
『練習用に!』
『放課後、一緒に食材買お!』
『ワタシのお金で!!』
『了解(グッド!)』
わっちゃーーん!! あぁ、女神さまよ!
そう、前日の準備とはこれだ。
明日に迫る本番に向けて、わっちゃんと予行練習をする。