ショッピングストアの店員に(ふん)したMARINEの刺客(しかく)どもがぞろぞろと集まってきた。
 そろいも(そろ)ってヤル気マンマンだ。そんなに上水流の〝禁断のパレス〟に入りたいか。
 上水流……本当、なんて中坊だ……。

 わたしとルミィは衝撃(しょうげき)をくらっていた。


 篠原さんがわたしたちの上腕をガッと(つか)み、すご過ぎる腕力(わんりょく)で引っ張った。


「もういいだろ!! 早くしねーと大軍来っぞ!」


 (てき)の合間を()うように進んで行き、使い捨ての弁当箱が売られている(たな)到着(とうちゃく)した。
 パルプ(せい)の弁当箱を四つかごに入れた。

 その間にも後にも、追いかけてきたMARINEの連中が問答無用(もんどうむよう)
(おど)ってきた。

 しかし、振り上げられた武器が一撃(いちげき)も当たることなく、どいつもこいつも篠原さんとルミィがことごとくぶっ飛ばしていった。

 篠原さんは、俊敏(しゅんびん)かつ的確な動きで先手必勝。必要最低限(さいていげん)の攻撃で、確実に相手の動きを止める。

 ルミィは舞踏会(ぶとうかい)でダンスを(おど)っているかのように優雅(ゆうが)で美しい動き。だが、一発一発の足技の威力が重く強烈。一発浴びせるだけで敵の顔を歪ませ戦意を喪失(そうしつ)させる。

 二人とも……めちゃくちゃ強い。

 二人よりも体格差のある男たちを相手にしても、一切(ひる)むことなく対処し、倒していく。

 うつくしい見た目に潜む、勇敢(ゆうかん)で屈強な戦士たち。

 すごく……かっこいい!!


 立ちはばかる敵全員を戦闘不能(せんとうふのう)にすると、わたしたちはレジに向かった。


「でもこの店の店員さん、みんなMARINEの人たちだし、本物の店員さんはいないんじゃない?」


 ルミィの言う通りだ。この店にレジ打ちしてくれる店員さんなんていないだろう。


「セルフレジを使えばいいじゃん」


 と篠原さんが言ったので、セルフレジを使い、無事に会計を()ますことができた。

 状況が状況でも、万引(まんび)きは絶対にダメだ。


 入って来た出入り口に行くと、自動ドアの前には、SOLARの幹部(かんぶ)らしき男が一人で立っていた。

 それを見た篠原さんは(きびす)を返した。


(ちが)う所から出よう」


 そう言って引き返す篠原さん。その背後に、SOLARの男が(こぶし)を振り上げて(せま)ってきた。


「危ない!」

 
 わたしはとっさに篠原さんにタックルをかまし、押し倒した。


 なんとか攻撃を回避(かいひ)することができた ―― うぐっ……!!


 しかし、すぐにそいつに()みつけられてしまった。

 ……大きな足で、強大な力で!!


「逃げんなヨォ!! ハデに()り合おうゼィ!!」


 非不良のわたしに何を言ってるんだ、コイツは……!!


 お゛……お゙゛ほ゛い゛……! く゛る゛し゛ぃ゛……!!


 なんて力だ……!! 篠原さんもろとも潰される……!!

 そう思ったのもつかの間、男はめっちゃ(とお)くまで吹っ飛んだ。ちょうど出入り口付近まで。

 
 わたしたちの目の前に現れたのは、ルミィだ。

「おい、わっちゃんに触んな」

 
 篠原さんが起き上がり、それに伴いわたしも起き上がった。

 後ろからは顔は見えないが、ルミィは激怒(げきど)しているのが分かった。


「うそだろ……」

 篠原さんは「信じられない」というような顔をしていた。

 わたしも同じ気持ちだ……。


「……クソ……羽月ルミエル……」


 わたしたちの後ろから声が聞こえたので振り向くと、ボロボロな顔の(うるわ)しのポニーテールくんが口から赤い(えき)を流して、ふらふらとこっちにやってきた。


「なんて……強さダ……」


 彼はきっと、MARINEの幹部(かんぶ)だ。
 ルミィ……もしかして、彼もやったの?


「……二人とも」


 篠原さんは、(ふる)えた声で話した。


「二人とも、SOLARとMARINEの副総長だよ」

「え、うそ」

「正直、この二人が相手になったら、ウチも()てるか分かんなかった」 

 そんな強い二人を……たった一人で……。ルミィは最強だ……。

 
 MARINEの副総長さんは、わたしと篠原さんの横を通り抜けて、再びルミィに(おそ)いかかった。

 SOLARの副総長も同様に襲いかかった。

 わたしは恐ろしくなって叫んだ。


「ルミィ! ダメっ!!」


 するとルミィは、副総長二人の攻撃をいとも容易(たやす)くかわして、二人を華麗(かれい)に抑え込んだ。
 そしてルミィはMARINEの背中に(こし)を下ろし、SOLARの背中に足を乗せて抑え込み手を空けて、わたしに向けて「グッ!」と親指を立てた。


「……この……バケモノめ……!」

「……なんてパワーダ、チキショー!!」


 抑え込まれている二人の副総長は、悔しそうに足掻(あが)いている。
 そんな二人を見て、ルミィは(うれ)しそうに笑った。

「ふふーん! このワタシに勝とうなんざ、無理な話なのよ ♪」

 ルンルンのルミィに、MARINEの副総長は苦々しく言った。


「ドS女が……」


 これにルミィは反論(はんろん)した。


「アンタんとこの総長ほどじゃないでしょ」


 この一言に、わたしも思った。わたしはそれを言いながらポニーテールの彼に近寄(ちかよ)った。


「そうだ、一番のドSは上水流だ。この一件、全ての黒幕(くろまく)はアイツだろ?」

「……話すから、放せ!」

「オレも放セ!」


 開放を嘆願(たんがん)する二人に、わたしはルミィに言った。


「ルミィ、放しておやりなさい」

「はいよっ」

 ルミィは足やお尻をどかし、二人を開放した。

「ところでお二人さん、名前は?」と言うと、二人は信じられないとでも言うような顔をして、SOLARの副総長(ふくそうちょう)は「このオレの名を知らねェだトォ!!」MARINEの副総長は「初等部の時同じクラスだったろ」となじった。

 そう言われましても、わたしは人に興味ないから、よほど強烈(きょうれつ)な印象があるヤツ以外は、名前すら覚えようとしない。
 
 彼らに非はない。ましてやわたしも悪くない。仕方ないことだ。 

「和女ちゃん、ウチらも初等部の二年、三年の時同じクラスだったんだけど。覚えてない感じだったよね」

 なんと!! 篠原さんの口から衝撃(しょうげき)的な発言が飛び出た!! 

 そうだったっけ……そういやあ、似たような女の子がいたようないなかったような……。


「わっちゃん……さすがに元クラスメイトを忘れちゃうのはヒドイよ」


 もう一度言う、わたしは悪くない。仕方ないことだ。


「ごめんなさい」


 でも(あやま)った。


「……で、なんでしたっけ?」


 内心めっちゃビビりながら、恐る恐る尋ねた。


「SOLAR副総長・赤根輪道(せきねりんどう)ダ! 覚えとケェ!!」

「3年A組、MARINE副総長の雨宮潤次(あめみやじゅんじ)だ」


 覚えておきます! ありがとうございます!


 ♡ ♡ ♡


 雨宮くん曰く、全ての黒幕はMARINE総長の上水流で間違いない。

 ただ、上水流がルミィのことをめちゃくちゃ憎んでいるというわけではなく、

 本気(マジ)で憎んでいる才賀さまの報復の手伝いなのだという。


「つまりアイツはただのドSだと」

「……まあ、人をたぶらかしてその反応を見るのが好きだな」

「ドSじゃん」


 ここまでの話を聞いて、篠原さんは内に()める赤い炎をたぎらせていた。

「じゃあ、なんだァ。ウチらはそのドS野郎のアソビのために危険な目に遭ったってことか?」

 これに、雨宮くんが答えた。
「それだけじゃないぞ。朝日奈の機嫌(きげん)取りにもなるし、アイツらも本気だったし」
 
 肯定はしてるじゃねーか。

「オレも羽月と()りあうの、楽しみにしてたんだゼ!」


 と赤根くんは|熱々の感情を込めて言った。


「俺もだ。羽月はめっちゃ強いって話聞いてたし」


 そうなんだ。ルミィの最強伝説は、わりと広まってたんだ。


「つったって、ムカつくことにゃあ変わりねーよ! テメーら大将、ぶっ飛ばしてやんよ!!」


 それでも篠原さんの(いか)りが収まることはなかった。


 あ、それから……ずっと気になってたことがあった。

「それともう一つ聞きたいんだけど……」

 ちょうどそのとき、店の自動ドアが開いた。逆にそれまではずっと閉まっていたらしい。
 わたしは初めて知った。


 自動ドアの向こうには、大柄で(かた)い顔の男が立っていた。
 彼のことは知っている。同じクラスだから。
 彼はGOLDの副総長・富田百瀬《とみたももせ》くんだ。

「富田くん、どうしたの?」

「まさかGOLDも……」

 ルミィと篠原さんは驚き警戒(けいかい)した。


 富田くんは沈黙(ちんもく)した。


「なんか言えヨ!!」


 痺れを切らした赤根くんが叫んだ。
 それでも彼は動じず(というか表情を変えず)でもようやく口を開いた。


「……羽月、黒地、篠原、うちのボスが呼んでる。車手配したから、乗ってくれ」


 富田くんの後ろには、高級な車が停まっていた。

「あとの二人は、ここの復旧でもしておけ」

「言われなくてもそうするつもりだ」

 
 わたしとルミィと篠原さんは、富田くんと共にその高級車に乗り、寮に戻った。男子寮だけど。


 ♡ ♡ ♡


 男子寮につくと、裏口から入り、VIP専用の豪華なエレベーターに乗って、寮の最上階に向かった。

 VIPルームへと続くエレベーターは、高級ホテルのような金ピカな造りをしていた。

 そして到着した最上階は、異次元の世界だった。

 エレベーターのドアが開いて、真っ先に出迎えたのは、『GOLD』と大きく彫られたガチの金ピカの壁だった。


「ここがGOLDのアジトだ」

『はあ ――?』


 富田くんの話なんぞカケラも耳に入って来ず、この目に飛び込んできたデカすぎる金の球体ではなく壁に、目ん玉だけでなく身体の全てが(うばわ)われた。
 わたしだけでなく、ルミィも、篠原(しのはら)さんも。


「おい、お前ら」


 富田くんのいつもよりも()った声に、「ハッ!」と我を取り戻した。


「行くぞ」

 
 彼に連れられた先は、『Fancy(ファンシー) Loom(ルーム)』と書かれた看板(かんばん)の先。

 重厚なドアを開けた先には ―― パステルピンクのかわいい部屋だった。


「おつかれー!」


 そこにいたのは……葉だった。