翔子は経営に携わっておらず、副社長という肩書きが名ばかりなのは一緒に住んでいた頃から理解していた。

しかし会社と個人の資産の区別がついていないというのは考えられないし、本気で言っているのだとしたらあまりにも無知が過ぎる。

翔子だけではない。それを黙認している健二もなにを考えているのだろう。

脱税や横領が発覚すれば、悪質であると判断されると加算税というペナルティだけでなく刑事罰が科されるケースもあるはずだ。

それすら知らずに贅沢に溺れているのだとしたら、彼らに会社を背負って立つ資格はないように思える。

呆然としていると、翔子だけでなく玲香もまた従順だった萌の変化に苛立ちを隠さず、美しいネイルの施された手でバン!とデスクを叩く。

「萌のくせにわかったような振りして口を出してくるなんて、調子にのってるんじゃないわよ! 桐生晴臣に気に入られていい気になってるんでしょうけど、どうせ今だけよ。あんな顔だけの男、他に女を作るに決まってるんだから。すぐに捨てられるわ」
「玲香のいう通りよ。だからこそ今のうちに、あのいけすかないお坊ちゃんから引き出せるだけ金を引き出してくるのよ。うちに援助させるの。こっちは特許のある特別な商品を卸してやっているのだし、なにより親戚になるんだから、助け合うのは当然でしょう?」
「ねぇママ、せっかくなら車がほしいわ。あちらには腐る程あるでしょうから、結婚前の結納っていうの? そういうので何台かくれないかしら」
「いいわね! 桐生の中でも一番高級ラインの車がいいわ。彼に話しておいてちょうだい。あぁ、もちろん結納返しは期待しないで。実子でもないのにそんな負担は背負えないもの」

翔子と玲香のあまりの言い草に、萌は唖然とした。