ここに来たのは、もう彼女たちに振り回されるのを終わりにするため。晴臣と手を取り合い、幸せに向かって走り出すために、過去の弱い自分に終止符を打ちに来たのだ。

萌は緊張と不安に震える自分を鼓舞し、デスクに置かれた領収書の束を彼女たちに差し出した。

「叔母さん、この領収書……本当に業務に必要なものですか?」
「はぁ? 急になにを言い出すの?」
「接待費や食事代も多すぎるし、ブランド店での買い物なんて、この会社には必要ないですよね?」

美しい眉根をひそめる翔子に怯みそうになるが、それでも震える声で言い募った。

「業務に関係のないものを経費計上するのは、横領や脱税にあたります」

今、彼女たちの身を飾っているもの。そのきらびやかな装飾品がすべて会社の経費から出ているのだとしたら、それは犯罪行為だ。

こんなことはやめてほしい。父の大切にしていた会社を、ものづくりに対する情熱を、汚すような真似をしてほしくない。

その一心ではじめて意見をぶつけた萌に対し、翔子は小馬鹿にするようにせせら笑った。

「私たちの会社よ。その金をどうしようと私たちの勝手でしょう。あんたにどうこう言われる筋合いはないわ」
「そんな……いくら社長や副社長だろうと、会社の資産を個人的に使うなんて」
「いい加減にしてちょうだい! これまでなにも問題がなかったのよ! あんたは黙って頼まれた雑用を済ませればいいのよ!」

萌が食い下がるのに苛立った翔子に大声で捲し立てられ、言葉が出ない。