経理の人間が自発的にこのような不正をしたとは思えず、社長と副社長である健二と翔子がかかわっている可能性が高い。

知ってしまった以上、このままにしておいていいはずがない。かといってどうすればいいのか、自分の取るべき行動がすぐには思い浮かばなかった。

領収書の束を前に固まっていると、「パパー、終わったー?」と職場にそぐわぬ大きな甲高い声が響いた。

ドアに視線を向けると、ノックもなく我が物顔で玲香と翔子が社長室に入ってくる。これからどこかに出掛けるのか、ふたりは随分と気合の入った格好だ。

「あら? 辛気臭い顔をしてるのがいると思ったら」

翔子はパソコンに向かう萌を見つけると、カツカツとヒールの音を響かせてデスクに寄ってくる。

「まったく、いい身分よね。ちょっと桐生の御曹司に気に入られたら、育ててやった恩を忘れて実家の手伝いもしないなんて」

笑顔を貼り付けているが、瞳の奥はまったく笑っていない。口の片端だけを上げ、顎を反って見下す態度に萎縮してしまいそうになる。

顔を合わせた途端に嫌みを言われ、つい俯いて目を伏せると、視界に映ったのは不正が疑われる領収書の束。

(やっぱり、このまま知らないふりなんてできない)

このまま帳簿に記入してしまえば、萌自身も犯罪の片棒を担ぐことになる。