接待交際費として高級レストランの領収書がかなりの枚数あるが、帳簿にはどこの取引先と会食をしたのかという記載は一切ない。一枚ずつ確認してみると、アフタヌーンティーやビュッフェ式のレストランなど、およそ会食に使用するような店ではなかった。

それだけでも首をかしげたくなるが、さらに眉をひそめたのが高級ブランド店の領収書だ。

ほとんどがアパレルショップやジュエリー店、化粧品店など、ねじ工場には無関係と思われる店の領収書ばかり。いずれも一件で二十万から三十万円という高額な領収書で、この三ヶ月で百万円以上にのぼる。

(これ、叔母さんと玲香の私的な買い物なんじゃ……)

萌の脳裏に恐ろしい言葉が浮かんだ。

(もしそうだとしたら、脱税とか横領になるよね……?)

私的な飲食代を接待と偽って経費に計上したり、業務に関係のない私物を経費で購入したとなれば、それはあきらかに違法行為だ。

あまり業績がよくないはずなのに、なぜ翔子や玲香が贅沢ができているのかずっと不思議だった。

まさかその理由は、父の遺した会社で悪質な犯罪行為で賄われていたということだろうか。

震える手で以前の帳簿を遡って見ていくと、どうやら経費の不正使用が始まったのは今から六年ほど前。ちょうど秋月工業の業績が落ち始め、元々いた社員が大量に辞めてしまった翌年だった。