萌はノックをして社長室のドアを開けた。以前あったはずの自社のねじがずらりと並べられていたガラスケースは処分されており、工場や事務所の雰囲気とは打って変わっておしゃれな執務デスクと豪華な応接セットが置かれている。

「あぁ、やっと来たか」

健二は気だるそうに立ち上がると、挨拶もなく自身のデスクへ萌を座らせた。

「これを全部入力をしろ。ただ書いてある通りの科目と数字を打ち込めばいい」

健二は乱雑に箱に入れられただけの領収書や発注書などの山を押しつけると、そのまま社長室から出て行った。

(こんなに溜めてるなんて……経理担当の人はどうしたんだろう?)

ざっと見ただけでも三ヶ月以上前の日付もある。月次決算を疎かにしているなんて、どれだけ人手が足りていないのだろう。

不可解に感じるものの、今は考えても仕方がない。これを終わらせない限り、きっと萌の話など聞いてもらえない。

自身の職場でも経理部で働く萌は、秋月工業の杜撰な帳簿管理に眉をひそめながらも慣れた手つきで黙々と科目や数字を打ち込んでいく。

しかしそう時間も経たないうちに、看過できない領収書の多さに手を止めた。

(これと、それにこれも、経費とは言えないないんじゃ……)