晴臣は桐生自動車の御曹司であり、跡継ぎを望まれているのだ。彼の妻になるからには身体を重ね、子供をもうけるのは当然の責務なのではないか。

恋愛偏差値の低い萌には預かり知らぬことだが、世の中には〝身体の相性〟という言葉もある。もしかしたら、結婚前にそうしたことも確かめるものなのだろうか。

(恥ずかしい……うっかりひとりで浮かれるところだった)

顔中に集まっていた熱が、すっと冷めていく。

萌は晴臣の胸を少しだけ押し返し、神妙な眼差しで彼を見つめた。

これは義務のようなもの。だから舞い上がったり落ち込んだりしてはいけない。きっと彼は萌ではなく、跡継ぎを求めているのだ。

そう考えて、自分を落ち着かせるようにゆっくりと頷いた。

すると、萌の表情を見た晴臣が眉根を寄せ、次いで納得したように「あぁ、今のは俺が悪い」と片手で顔を覆った。

「違うよ、萌。夫婦としての義務とか、跡継ぎがほしいとか、そういう意味じゃないから」
「……え?」
「萌が好きだ。だから、君を抱きたい」

今度こそ、思考が停止した。