『いいか悪いかじゃない。萌がどうしたいかだよ』

彼の言葉を思い出し、萌はハッとして玲香から後ずさった。

(流されちゃダメだ。私は変わるって決めたんだから)

慌てたせいか後ろに踏み出した足を捻ってしまい、視界がガクンと揺れる。

(わっ……!)

頭から床に倒れるのを覚悟してぎゅっと目をつぶったが、恐れていた衝撃は一向に来ない。

「っと、大丈夫?」

誰かが抱きとめてくれたのだと理解した瞬間、停止しかけた思考を引き戻すように、背後から聞き慣れた声がした。

「足挫いた? 荷物持つよ、貸して」

萌を心配する優しい声音に、萎縮して固まっていた身体がほぐれていくのを感じる。支えてくれる晴臣の体温が、萌の心まで優しく包んでくれたようだった。

ホッとしたもののすぐに声が出ず、首を横に振って大丈夫だと答えた。