一度も染めたことのなかった艶やかな黒髪は、自宅で無理やり市販のブリーチ剤で染められたため、黒と金色のまだら模様となっている。

初めて自分で染めて失敗した学生すらここまで酷くはならないだろうという出来栄えだが、美容院に行って染め直す時間的猶予はなかった。

かといってこの場に帽子をかぶってくるわけにもいかず、できるだけ目立たないように後ろでお団子にしてまとめている。

このみっともない髪型を、向かいに座る初対面の家族にどう思われているか想像するだけで気分が塞ぎ込み、とても食事を楽しむ気にはなれない。

それに今日こうして一流老舗ホテルの高級店にやってきたのは、素晴らしい料理を楽しむためではないのだ。

萌は現在、父方の叔父である健二の命令によって、日本有数の大企業である桐生自動車の社長子息とのお見合いに臨んでいた。

健二は萌の亡き父、陽一から『秋月工業』の株式を相続し、現在社長を務めている。そして妻の翔子は名ばかりの副社長だ。