(ここは晴臣さんの家なんだから、勝手にあげるわけにはいかない)

かといって自分の要求が通ると信じて疑わない玲香を相手に、どう断ったらいいのかわからない。

叔父の家に引き取られた中学生の頃から、同い年である萌と玲香の間にはハッキリとした上下関係がある。萌にとって、玲香や翔子の言うことは絶対だった。

「ちょっと! 聞いてるの?」
「あの、でも、晴臣さんの家だし、私が勝手にあげていいのか判断できなくて……」
「なに言ってるの、今はあんたも住んでるんでしょ? そこに入るのになんで許可が必要なのよ!」

大声で高圧的に話されると、長年の習慣で頭が考えることを放棄しようとしだす。

反論してより強く罵倒されるよりは、どれだけ理不尽でも飲み込んでしまった方が楽なのだと、過去の経験から学んでしまっていた。

「早くしなさいよ。ったく、相変わらずとろいんだから。大体あんたの意見なんか聞いてないの。私が部屋にあがるって言ってるんだから、さっさと案内すればいいのよ!」

玲香がうるさいほどにヒールの音を響かせながら詰め寄ってくる。

ずっとそうだった。萌の意思など関係ない。誰も萌にどうしたいかなど聞いてくれなかった。

あの日、晴臣に出会うまでは――――。