幸か不幸か学生の頃から一手に家事を引き受けていたおかげで、すでに仕事終わりの家事は生活の一部となっていて苦ではない。特に料理は好きなのでやらせてほしいと頼むと、「萌も仕事をしてるんだから、ムリはしないように」と苦笑しながら了承してくれた。
今日も萌は仕事終わりにスーパーに寄り、手早く数品の夕食を作り終えたところで晴臣が帰ってきた。
「ただいま。すごくいいにおいがする」
「おかえりなさい。昨日リクエストしてくださったチキン南蛮です」
「やっぱり。においだけでお腹空いてきた」
「すぐに準備するので、着替えててくださいね」
「ありがとう」
リビングに顔を出した晴臣にそう言うと、彼はキッチンに立つ萌に近づき、ぽんぽんと軽く頭を撫でてから自室へと足を進める。
その背中を見送る萌の頬は、鏡を見なくても赤くなっているとわかるくらいに熱い。
(晴臣さんにとったら軽いスキンシップなんだろうけど、毎回ドキドキする……)
同居を始めて一週間、毎日ベッドをともにしているが、萌と晴臣はいまだに男女の仲になってはいない。