「よかった。これを飲んだら部屋に案内するよ。そうしたら今日はもう休んだらいい。少しだけブランデーを入れてあるから、きっとよく眠れる」
ひと口、もうひと口と飲み進めるうちに、萌の身体はぽかぽかとあたたまり、心までほぐれてきたように感じる。
常に張り詰めていた心の鎧がチョコレートのあたたかさで溶かされ、ぽろりとひと粒の涙となって零れ落ちた。
「本当に、おいしい……あったかい」
誰かが自分のために作ってくれたものを口にするのは、両親を亡くして以来初めてだ。
次々と大粒の涙が溢れるのに構わず、萌はゆっくりとチョコレートを飲む。その様子を、晴臣はただ隣に座って見守ってくれていた。
初めて来た男性の部屋で眠れるだろうかと思ったのは一瞬で、萌のまぶたは徐々に重たくなっていく。
「すごくおいしくて、なんだかふわふわします」
「もしかして酒に弱い? 萌、危ないからマグカップを貸して。部屋の案内は明日にしよう。そのまま眠っていいから」
「でも片付けをしないと、怒られちゃう……」