「終わったかな」
「はい」
「もうすぐ夕飯の時間だけど、なにか食べられそう?」
「いえ、あまり」
昼間もろくに食べられなかったが、今日は色々ありすぎて空腹は感じない。
「だと思った。はい、これ」
手渡されたマグカップからはもくもくと白い湯気が立ち上り、辺りにふんわりと甘い香りが漂う。
「ホットチョコレート。これならゆっくり飲めばお腹も心も満たされるんじゃないかと思って。身上書には書かなかったけど、甘いものに目がないんだ。萌は?」
「私、ですか……?」
「甘いものは好き?」
そう問われ、萌はじっと考えてみる。
自分がなにを好きかなど、この十年考えたこともない。萌が作る料理は叔母や玲香が好きなものであり、自分の好みなど反映させる必要はないからだ。