(緊張しすぎて心臓が痛い)

翔子や玲香に対する萎縮して身体が固まる感覚とは違い、晴臣には恐怖を感じているわけではない。

ただこれまで接したことのある大人の男性といえば、父か叔父、学生時代の教師、職場の上司など、みんな萌よりもひと回りもふた回りも年上ばかりだった。

萌は年齢相応の恋愛経験などひとつもなく、初恋もまだである。

それなのに目を見張るほどに優れた容姿をしている男性と、これから結婚を前提に一緒に暮らそうとしているのだ。緊張しないはずがない。

(私、本当にすごい決断をしちゃったんだ……)

ふと、目の前の大きな鏡に映る自分の姿が目に入る。

何度見ても酷い髪は、普段どれだけ感情を出さないようにしている萌でも泣きたくなる。

なるべく注目されないようにと後ろで纏めたが、それでもまだらに色の抜けた髪は見苦しいほどに目立つ。