戸惑う萌に、晴臣は「その格好のままじゃ手当てもできないだろ?」と告げた。

たしかに傷の手当てをするにはストッキングを脱がないといけないし、自宅に帰る選択肢がない以上、お風呂に入らないわけにもいかない。

だからといって「じゃあお借りします」などと言える性格でもなく、萌はパウダールームの前で佇んだまま。

「着替えは俺のもので悪いけど、今日のところは我慢して」

晴臣は棚からTシャツとハーフパンツを取り出すと、ここに来る途中に薬局で買った歯ブラシや下着、メイク落としなど最低限の日用品と一緒に強引に萌に手渡した。

「あの一番奥の扉がリビングだから、上がったらそっちに来て。アプリで事前にお湯は張ってあるし、このドアもちゃんと鍵がかかるから。安心してゆっくりあたたまっておいで」

一から十まですべて指示されたが、決して不快ではない。強引に思える物言いは、優しさに溢れた配慮なのだと萌にも理解できる。

恐縮しながら受け取ると、晴臣は小さく微笑んでリビングに続く扉の方へ歩いていった。

パウダールームのドアが閉まり、ひとりきりになると張り詰めていた気が少しだけ緩む。