近くに停めていた晴臣の車に乗るように促され、萌は大人しく助手席へ座った。

白いセダンは滑らかなボディラインが美しく、内装は黒い革張りで高級感が漂っている。桐の葉を模したエンブレムがフロント部分に輝いていたため、すぐに桐生自動車の製品だとわかった。

「とりあえず病院へ行こう。保険証はある?」
「あの、病院に行くほどではないので大丈夫です。それよりどうして……お仕事は大丈夫なんですか?」
「指示を出して来たから平気だ。縁談を進めると連絡をすれば、こういう事態になるかもしれないと気付くのが遅かった。俺から提案したのに、肝心なところで守れなくてごめん」
「そんなこと……」

彼は翔子や玲香が激昂する可能性に気付き、すぐに引き返して来てくれたらしい。

晴臣にはなんの非もないのに頭を下げられ、萌は驚きに言葉がでない。

(こんな風に優しい人は、これまでいなかった……)

両親を亡くした直後は学校の友人たちがそばにいてくれたが、彼女たちも玲香の企てにより離れていった。