晴臣の指摘に、翔子の姦しいお喋りが止まる。

額縁が当たった脛は赤くなっており、角で切れたのかストッキングは伝線して血が滲んでいる。玲香が相当な勢いで投げつけたため、きっと時間を経たずに大きな痣になるだろう。

けれどここでそれを正直に言えるほど、萌は強くはなかった。

「おいで。一緒に病院に行こう」
「病院?」

聞き返したのは、萌ではなく玲香だった。彼女はひどく不愉快そうな顔をしているが、晴臣は意に介さず頷いた。

「傷にガラス片が入っていたら大変ですから。父から電話を差し上げた通り、萌さんとの縁談を前向きに進めさせていただきます。それにあたって、彼女とすぐにでも一緒に暮らしたいと考えています」
「一緒に暮らすですって?」
「ええ。私は今後仕事で多忙になりますし、できるだけふたりの時間を取ろうと思うのなら一緒に住むのが合理的かと」