「失礼します」

背後から聞こえた声が信じられず、萌はゆっくりと振り返る。

「無遠慮で申し訳ありません。大きな音がしたもので、心配で勝手にドアを開けさせていただきました」

突如姿をあらわした晴臣に玲香も翔子も驚いていたが、すぐに般若のような表情を引っ込めると、甲高い声と媚に満ちた笑顔で彼を出迎えた。

「晴臣さん! どうなさったのですか?」
「あら、先ほどお父様からお電話があったのだけれど、やっぱり萌じゃなく玲香の間違いだったのかしら」
「まぁ! それでわざわざ訂正に?」

晴臣は見合いの席と同様に口々に喋りだすふたりを一瞥すると、萌の足元に視線を移し眉をひそめた。それに気付いた翔子が取り繕うように早口で捲し立てる。

「あ……いやだ、ごめんなさいね。普段はもっと綺麗にしているのよ。見苦しくて申し訳ないわ」
「萌さん、怪我を?」
「この子ったら本当にそそっかしくて、頻繁に物を落として壊すの。粗忽者で嫌になっちゃう」
「落としただけで、この怪我ですか?」