「……痛っ」
咄嗟に身を縮めたが萌の脛に当たり、そのまま床に落ちるとガシャンと派手な音を立てて砕け散った。
(どうして、ここまでされなくてはいけないの……?)
これまで何度も心の奥に湧き上がりながらも、押し殺してきた感情だ。それを考えてしまえば、その先には今以上の絶望が待っている気がしていた。
思考を放棄して自分を守っていた萌の脳裏に、先ほどの晴臣の言葉がよぎる。
『もし今の環境を変えたいと思うのなら、俺を利用すればいい』
麻痺していた思考回路が、ゆっくりと目覚め始めているような感覚がする。
(この家から出なくちゃ。私、このままじゃダメだ)
「お断りの連絡を入れるように主人に頼んでおいたから、これ以上調子にのらないことね」
「あんたが悪いんだから。ちゃんと片付けておきなさいよ!」
痛みに顔をしかめる萌を見て溜飲が下がったのか、玲香と翔子は踵を返してリビングに戻ろうとする。その時、萌の後ろで玄関の扉が大きく開いた。