決定的な亀裂が入ったのは、萌と玲香が小学六年生の頃。

萌の父親の陽一が友人と秋月工業を起こし会社を軌道に乗せている頃、玲香の父である健二は地元企業に勤めていたが、業績が悪化し給料は激減。

それを憂いて大した知識もないまま株に手を出してしまったのが失敗で、健二は二百万円の損失を出してしまった。

彼は兄である陽一に泣きつき、一度きりと約束の上で補填してもらうと、今度は怪しい投資話に乗り、四百万円ほど騙し取られた。

再び相談に来た健二に対し、陽一は『約束は約束だ。家族を守る立場なんだから安易な儲け話に飛びつかず、堅実に生活を立て直しなさい』と言い、助言はしたものの金銭的な援助は一切しなかった。そのため叔父一家は、一時的とはいえ生活がかなり困窮したらしい。

小さいながらも会社社長として成功している陽一、そんな彼に愛されている平凡な妻、なに不自由なく育っている娘の萌。

義理の兄一家を、翔子は『なんて薄情な人なの! 自分たちだけ幸せに暮らして私たちを見捨てるなんて最低な人間だわ!』と事あるごとに罵った。