すると、すぐにドタドタと怒りを滲ませた足音が廊下から響いてくる。

「萌! 一体どういうこと? さっき桐生社長から連絡があったのよ! あんたとの縁談を進めるって」

その声を聞いた途端、胸の奥に差し込んだ光が一気に輝きを失っていく。

すでに振り袖を脱ぎ、ハイブランドのワンピースに着替えを済ませていた玲香が鬼の形相で詰め寄ってきた。その後ろには翔子の姿もあり、玲香と同じ表情をしている。

「私が晴臣さんと結婚するはずだったのに! 秋月工業の社長令嬢はあんたじゃない、私よ!」

学生の頃から彼女は何度も『社長令嬢は自分だ』と繰り返す。それは執拗なほどに。

同い年で同性の従姉妹同士、近所に住んでいるため学校も同じとなれば、多少なりとも比較される。

美しい母親に似て美少女との呼び声が高かった玲香は、自尊心が高く他人を見下すようなきらいがあり友人が少なかったため、目を惹く容姿ではないものの周囲に人が集まる萌に対し、ずっとコンプレックスを抱いていたのだ。