彼の提案に手放しで乗ればいいのか、目的のためとはいえ、よく知らない人との結婚など断るべきなのか。

ホテルから叔父の家に帰るまでの間ずっと考えていたが、その場でムリだと拒絶しなかったのが答えなような気がする。

あの家から出られると聞き、一縷の望みに胸が震えた。

もしかしたら今この時が、萌の人生にとって転機なのではないだろうか。

こんなにも必死になにかを考えたのは、ずいぶん久しぶりだ。明らかにキャパシティを超えていて、頭から煙が出そうだった。

けれど、わずかに胸の奥がふわふわと浮き立つような心地がする。

(もしも、あの人の提案に頷いたら……)

ヒステリックな怒鳴り声に怯えたり、心ない中傷に耳を塞ぎたくなったり、朝が来るたびに憂鬱になったりする毎日から脱却できるかもしれない。

晴臣の連絡先が登録されたスマホを大事に握りしめ、萌は玄関の鍵を開けた。