その後、晴臣に仕事の電話がかかってきたため、連絡先を交換して別れた。

彼は自宅まで送ると申し出てくれたが、これから仕事に向かう相手に手間をかけさせるなど申し訳ない。丁重に断り、約一時間かけて電車で帰宅した。

『なるべく時間を合わせるから、試しに結婚を前提に何度か会ってみないか?』

別れ際、晴臣はそう言った。

互いを知るために何度か会って、この先の生活をともにするパートナーとなり得るのかを判断しようということらしい。

打算的な結婚を持ちかけてはいるが、彼は事務的でも冷淡でもなかった。結婚前提で会ってみるという彼の話も、萌の戸惑う気持ちを汲んだ上での提案だとわかる。

けれど萌には男性との交際経験など一切ないため、その言葉にすら頷くことができなかった。

(あとで連絡をくれるって言っていたけど、なにを話せばいいんだろう……)