「育ててやった恩、ですか?」
「そうよ、誰のおかげで施設に放り込まれずに家族の元で暮らせたと思ってるの!」
「あなた方は萌のご両親の死後、彼女の未成年後見人になっていますよね」
「ええ。私たち以外に親族はいなかったもの」
「さらに養子縁組ではなく親族里親の制度を利用し、毎月自治体から手当を受け取っていた」

翔子は美しい口元に小馬鹿にするような笑みを浮かべ、フンと顎を反らせる。

「それがなんだって言うの? 当然の権利よ」
「にもかかわらず、大学進学を金銭的理由で阻み就職させた上、給料のほとんどを生活費の面目で奪い取っていた」
「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい! 高校まで卒業させてやったのだからとやかく言われる筋合いはないし、就職したのだから家に生活費を入れるのは当然でしょう」

当事者は自分であるはずだが、萌にとって初めて聞く話ばかりだった。

両親を亡くしたのは中学二年の頃。あの時はショックが大きくて呆然とするしかできず、どういう手続きを踏んで自分が叔父一家に引き取られたのかなど気にする余裕もなかった。

気づいたら実家や会社が叔父たちのものになっていて、両親の遺産などあるのかどうかすら知らない。