いつもの穏やかな表情は鳴りを潜め、晴臣は不敵な笑みを浮かべて健二に視線を送る。『ものづくりの根幹』と萌の父の言葉を引用したのも、彼に対する強烈な皮肉なのかもしれない。

「そ、そんな……特許の期限だと……」
「経費の不正使用に製品の不良、さらに特許が切れているにも関わらず特許製品だとする虚偽表示。いずれも企業の信頼を貶めています。こちらを当てにされていたようですが、援助するつもりは一切ありません。ここ数年、多数の企業から手を切られている原因は御社にあるとおわかりいただけたのでは?」
「バカな……せっかく、手に入れたというのに……。なにもかも持っていた兄から、ようやく奪えた会社だったのに……」

晴臣の言葉を聞き、健二は魂が抜けたように力なくその場に座り込んだ。このまま会社の運営を続けても負債は膨らむばかり。もう会社を畳む以外に道はない、そう気づいたのだろう。

しかし、それでも黙っていられないのが翔子と玲香だった。

「企業の信頼を落とす真似をしたのは、そこで大事そうに守られている萌でしょう! 告発だなんて、育ててやった恩も忘れて!」
「そうよ! パパの手伝いをするふりをして告げ口したんでしょう! なんて嫌な女なの! 責任取りなさいよ!」

晴臣には太刀打ちできないと踏んだのか、ふたりは萌を非難する。

反論しようとしたが、晴臣から「君は十分頑張った。あとは俺に任せて」と耳打ちされ、萌は戸惑いながらも頷いた。